
PROFILE この記事の登場人物

山崎 達郎 東京支社 営業部 リーダー職 兼 報道制作局企画開発部(テレビ愛知)
テレビ愛知の企画開発部署に所属し、営業やコンテンツ制作に携わる。2019年に東京支社へ異動した後、特番などの企画にも参加。得意先との対話を大切にしながら、新たな形の番組制作に取り組んでいる。

二ノ宮 拓郎 報道制作局 制作グループ リーダー職(テレビ愛知)
テレビ愛知の制作グループに所属し、プロデューサーとして番組の企画・立ち上げを手がける。20年以上のキャリアのなかで、番組制作だけでなく、営業やデジタル領域にも携わる。現在は、さまざまな企画の種を膨らませ、形にすることを主軸に活動している。

閉店に向かう名古屋の喫茶店を舞台に、人と人とのつながりを描く連続テレビドラマ『純喫茶つながり、閉店します』。大東建託も特別協力という形で関わっているこのドラマは、いったいどのように作られたのでしょうか。企画を担当された山崎さん、プロデューサーの二ノ宮さん、監督の的場さんに、ドラマの裏話をたっぷり伺いました!
“不倫”や“復讐”ものが多いからこそ、“ハートウォーミングでクスッと笑える”ドラマを目指した

喫茶店を舞台に展開する連続ドラマ『純喫茶つながり、閉店します』。視聴者さんからの反響はいかがでしたか?

「そうですね。僕は普段“不倫”や“復讐”といったドラマをやることも多いんです(笑)。今そういう作品が多いなかで、本作はある意味で挑戦的だなと思い、引き受けさせていただきました。喫茶店というワンシチュエーションで、会話劇を中心に展開していくのですが、その空気感や雰囲気が話を重ねるごとに観ている人にも、しっかり届いているように思います」

「特に第1話って大事なんです。主人公・鹿野典夫(竹財輝之助)やアルバイト店員の亜希菜(渡邉美穂)、常連客の小山田(小手伸也)の3人の空気感がきちんと伝わらないと、その後につながっていきません。それに、会話劇だからセリフも多かったのですが、的場さんをはじめ、役者の皆さんやスタッフの方々のおかげで、上手く表現することができたなと感じています」
このドラマはどのような経緯で生まれたのでしょうか?

「私は東京に着任して半年ほどでコロナ禍となり、対面での営業が難しい状況が続きました。そんななか、大東建託の担当者さんは、いつも温かく接してくださり、さまざまなお話をするうちに『周年の事業としてドラマを制作しないか』という話をいただいたんです。大東建託では中井貴一さんが喫茶店のマスターを演じる企業ブランドCM『喫茶ミライ』シリーズを放映しているので、『喫茶店のマスターを主人公にしてはどうか』、『大東建託の創業の地・名古屋の喫茶店を舞台にしてはどうか』と話が進んでいきました」


「山崎さんからその話を聞いて、『純喫茶つながり』という店名と、閉店に向かうなかで展開していくというシチュエーションを考えました。喫茶店は老若男女、いろいろな世代が集まる場所なので、各話の核となる悩みもバリエーションが出せるし、観ている人にとっても親近感が湧きやすくなる。それらを踏まえて、脚本家の富安美尋さんを交えたディスカッションを重ね、細かい設定を決めていったんです。それで、毎回悩みを抱えたお客さんが『純喫茶つながり』にやってきて、典夫・亜希菜・小山田とのやり取りを通じて、ちょっと前向きになる、その“つながり”を描くという一話完結の物語ができました」
そうして出来上がった脚本を読んだとき、どんな感想をお持ちになりましたか?

「企画の段階で『ハートウォーミングだけど、ちょっと笑えるようなドラマにしてください』とリクエストしたんですが、まさに理想通りの絶妙な脚本でした。毎回、クスッと笑えるシーンがあるおかげで、説教くさくならず、観る人の心にまっすぐ響く、そんな作品だなと思っています」

「実はもっと感動を狙うような話も考えたんですが、この脚本は泣かせにいっていなくて、山崎さんのいうように、すごくいい塩梅だなと感じました。1話30分という短いなかで、それぞれのキャラクターと、悩みを抱えているお客さんとのバランスが良いなと。ただ、『ハートウォーミングだけどちょっと笑わせつつ、かつ説教くさくならないように』というのは、意外と演出の面で難しいなと思いましたね(笑)」


「そうですよね(笑)。『ちょっと笑えるような』という抽象的なリクエストだったけど、富安さんが繊細なセリフ回しですごく面白い脚本にしてくれました。特に、富安さんの持ち味とも言える、メインキャラ3人の軽妙な掛け合いが気に入っているポイントです」
今回の座談会の舞台となったのは、小田急小田原線・和泉多摩川駅から徒歩1分の洋風居酒屋「トム・ソーヤ」。ドラマ『純喫茶つながり、閉店します』のロケ地としても使用され、撮影は全編を通してここで行われました。広々とした店内には木の温もりがあふれ、落ち着いた雰囲気が漂います。
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小手伸也さんの演技に監督が笑ってしまいNG連発!?
キャスティングの決め手について教えてください。

「本作の企画のもとになった大東建託のCMには中井貴一さんが出演されていますが、そのイメージと重ならず、新たなところを見せてくれる方がいいなと考えて、キャスティングを進めました。候補者のなかでも、竹財さんは特にぴったりで、彼の自然な演技が決め手となりましたね」

「竹財さんとは以前にも仕事をしたことがあって、とても信頼感のある役者さんです。小手さんとも仕事をしたことがあるんですが、もし小手さんが演じてくれたら、そこが作品のキーポイントになると思いました。ポスターからも分かるように、画面にいるだけでコメディ感が生まれるといいますか(笑)。実際、小手さんに決まってから、小山田のキャラクターを小手さんに寄せて脚本を修正してもらいました。渡邉さんは初めてご一緒しましたが、会話劇にもしっくりハマっていました」


「今思うと、これ以外には考えられないキャスティングですよね。渡邉さんは役のイメージにぴったりだった。竹財さんと小手さんとは歳が離れているけど、すぐになじんでいましたね(笑)」

「現場では3人とも和気あいあいとしていましたよね(笑)。楽しい撮影でした」
光景が目に浮かびます。撮影現場での印象的なエピソードはありますか?

「1話で小手さんが『携帯の電源を切ったらいいんじゃないの』というシーンがあるんですが、ここの小手さんの芝居がめちゃくちゃ面白くて、僕が笑ってNGを出してしまいました(笑)。そしたら渡邉さんもツボに入ったみたいで笑っちゃって……。結局、小手さんにはもう少し控えめに演じていただきました」

「4話でも、小手さんが金八先生ふうに人という字について説明するシーンで、相手役・隼人を演じた白鳥晴都さんがツボに入って笑っちゃって(笑)。何回も撮り直しましたよね」

小手さんがムードメーカーだったんですね。では、全5話のドラマのなかで、特にお気に入りのシーンを教えてください。

「私のお気に入りは、3話の認知症のお母さんと息子さんのシーン。お母さんがおしぼりで息子の口元を拭うところと、先代のマスターが出てくるところ。幸い私の母は元気ですが、あの親子と同じ世代なので、やっぱり自分と母を重ねて見てしまい、うるっときました」

「僕はやっぱり最終話。売れない小説家の典夫が一人である決断をして演説するシーンがあるんですが、竹財さんの演技に震えるくらいグッときました。素敵なシーンです」

「悩みますね(笑)。二ノ宮さんがおっしゃっているシーンも印象に残っていますが、僕は最終話のラストシーンですね。そんなにセリフがないシーンなんですけど、皆さんとてもいい表情をしていて……。ドラマは終わりを迎えるけれど、典夫や亜希菜、小山田の人生はその先の未来へとつながっていく、そんなシーンになったと思っています」

“人のつながり”よりも“Wi-Fiのつながり” を気にする人が多いから。時代が変わっても、オフラインのつながりは大切
このドラマは大東建託のグループパーパス「託すをつなぎ、未来をひらく。」を作品に盛り込んだそうですね。

「現代って、“人のつながり”よりも“Wi-Fiのつながり”を気にする人が増えているのかなと感じています。電車でもみんながスマホを見ていて、SNSには誹謗中傷があふれている。私はアナログな人間なので、そういうのが気になっていて……。そんななか、ドラマの舞台である喫茶店は、人と人の心をつなぐ“心のインフラ”といいますか。人と人が交流する空間で、そこには信頼関係があって、土地に愛されていて、みたいな。それは大東建託のグループパーパスとリンクしていると感じています」

「本作の物語は、メインキャラクター3人のつながりが深まっていくなかで、毎回お客さんとの新しいつながりが生まれていきます。例えば4話、典夫がお客さんである高校生の隼人に語りかける言葉が、亜希菜と幼なじみの京佳(水湊美緒)の二人にも作用するシーンがあるんです。まさに、つながりが未来をひらくシーンだと思います」

「確かに。各話で毎回お客さんがいるんですが、その先のつながりが自然と想像できるんですよね。例えば、主婦が悩んでいる相手にはママ友がいて、そこには子どもがいて、さらにその親もいて…… と、30分の物語の枠を超えて、登場人物同士の関係性が広がって見えるんです。それが決して特別なつながりではなく、日常のなかで誰もが共感できるようなものとして描かれています」

最後に、この作品に込めた思いをそれぞれお聞かせください。

「40数年生きてきて、時代は大きく変わったけれど、人とのつながりの大切さは今も変わらないと感じています。このドラマを観た人が、それぞれの“大切にしたいつながり”に思いを馳せてくれたら嬉しいですね」

「街にあるようなカフェは、作業をする場所になりがちですが、“一度スマホやパソコンを置いて、そこにある会話や香りを感じてほしい”という想いを作品に込めました。コーヒーをただの飲み物として消費するのではなく、その温もりや香り、そしてそれを味わう時間をゆっくりと楽しんでほしい。このドラマが、そういう時間を持つきっかけになればうれしいです」

「正面から登場人物と向き合うことを大切にしながら、ドラマを作りました。典夫が最後にする選択は、未来につながっていくものだと考えています。人生には、何かが終わったときに新しい何かが始まることがあるので、この作品を通じて、観ている人も“終わり”を前向きに捉えてもらえたらいいなと思います」

「SNSで感想をエゴサしていました(笑)。最近の深夜ドラマは、“不倫”や“復讐”をテーマにした、刺激的な内容が多いです。そのなかで、ほっこりする内容というのは、今ありそうで少ないなと。SNSでも『こういうあたたかいドラマ、久しぶりかも……』という感想を見かけたときに、やって良かったなと思いました。監督の的場さんが意識されていた世界観が、ちゃんと伝わっていてうれしいですね」