
PROFILE この記事の登場人物

前田 敦 建築家・一級建築士。前田敦計画工房代表
1958年山口県生まれ。日本大学大学院博士前期課程修了後、圓建築設計事務所、UPM八束はじめ建築計画室を経て1990年に独立。犬・猫ともに精通したペット共生住宅のスペシャリストとして、「愛犬と快適に暮らす家」「愛猫と快適に暮らす家」の設計・監理に数多くの実績をもつ。「スロープの家シリーズ」が人気で、テレビ番組などへの出演も多い。
ペットと一緒に暮らしている多くの人が夢見る、ペットがより快適で、より安全に、より幸せに暮らせるような家づくり。大東建託では、そんな夢を叶えるために、ペット共生型の賃貸住宅「わんRoom」「にゃんRoom」というサービスを提供しています。
そこで今回は、ペットと幸せに暮らせる家づくりを実現したい方に向けて、「ペットと暮らす上で大切なポイント」を、ペット共生住宅を専門にする前田敦計画工房の代表・前田敦さんに伺いました。
ペットも人も快適な家づくり。前田さんに学ぶ7つのヒント
ペットとともに暮らす家では、小さな工夫でも、ペットの心地よさや安全性をグッと高めることができます。まずは前田さんがこれまで設計してきた数々の事例とともに、ペットと暮らす上で覚えておきたい7つのポイントを紹介していきます。
ポイント01:まずは階段(昇降装置)を整えよう
階段は、犬や猫にとって意外なリスクが潜んでいる場所です。
日本の住宅によくある階段は、蹴上げが23cm、踏み面が23cm。つまり45度の階段を昇降することになり、犬や猫の足腰に大きな負担がかかって怪我のリスクが生じます。さらに建築基準法では、踏み面は「15cm以上」と定められており、回り階段などで危険性がより高まります。

また犬や猫は、人間よりも歳を取るスピードが早いため、高齢化を視野に入れておくことも重要です。若い頃はぴょんぴょんと登れていた段差も、いずれ登れなくなってしまうことも考えておきたいところです。
ただ、スロープは一定以上の広い敷地を必要とするので、敷地面積が十分に取れない場合も。その場合、前田さんは“ゆったり階段”も提案しています。
ペットの怪我のリスクを減らすことができる、ゆったり階段
前田「ゆったり階段とは、蹴上げが15cm、踏み面が30cm、約27度のゆるやかな階段です。ダックスフンドでも背骨が伸びた状態で昇降することができ、怪我のリスクを下げられます。大きめの階段にはなりますが、スロープに比べればコンパクトなスペースで作ることができるんです」
前田「以前、雑誌の誌上コンペ企画『ダックスフンドと暮らす家』に、スキップフロアをスロープでつないだ提案をしたところ、最優秀賞をいただきました。それから数年後に『この家を建ててほしい』と依頼があり、実現したのが鎌倉の『スロープの家・SPIRAL COURT』です」
ポイント02:動線を立体的に確保する
「人間の動線、犬の動線、猫の動線が立体的に絡んでいるので、僕が設計するときは基本的に動線のデザインばかり考えていますね」と語る前田さん。
国内の飼育数を見てみると、犬は約680万頭、猫は約916万頭と、猫の飼育数の方が多い傾向にあります。一方で、飼育している世帯数を見てみると、犬は515万世帯、猫は約506万世帯とほぼ同程度。つまり、猫は多頭飼いが多いことがデータから分かります(※)。
前田「多頭飼いの家では、猫同士の力関係が生じます。そうなると、キャットウォーク上では、力が弱い猫は逃げなければなりません。すると、キャットウォークの落下事故が起きやすくなってきてしまうんです。

最近も、保護猫カフェの方から『キャットウォークの落下事故が相次いでいるから対策してほしい』と相談があったばかりです。だから、キャットウォークでポイントなのは、必ず2方向の避難ルートを作ること。そして、すれ違うこともできるように35cmの奥行きを用意することです。その2つを重視して、試行錯誤しながら犬や猫に適した規格を作っていますね」
※参考データ: https://petfood.or.jp/pdf/data/2024/3.pdf
ポイント03:「騒音」問題には要注意!
犬や猫の鳴き声は、近隣の住民とのトラブルになりがち。この騒音問題も、ペットとともに暮らす上で重要なポイントです。
前田「犬や猫は、日中はほとんど寝ていますが、騒音が多いと落ち着きがなくなってしまいます。そうした点でも、二重サッシは特にオススメです。新築時に付けていなかったとしても、もしもクレームが来てしまったり、ペットが外の音を気にしてしまったりする場合には、後から取り付けることができます。

敷地選定の段階で、静かな場所よりも、元から騒音が多少ある場所を選ぶのもひとつの手です。『もともと近所の大通りのバスがうるさい』となれば、犬や猫の騒音トラブルが生じる確率は下がりますからね」
また、犬や猫にとっても音は大問題。外から聞こえる騒音は、ストレスになるケースも多くあります。ちなみに、前田さんの愛犬・かむいくん(日本テリア)は、救急車やパトカーの音には反応しないものの、区の防災放送や選挙カーなどの人間の声には警戒心が強いそう。
前田「騒音に配慮した例としては、市川の『スロープの家・CUBE』の敷地は、閑静な住宅街でした。そのため、外側には小さな窓だけにとどめています。また、騒音への影響が少ない中庭に対しては大きな開口を設け、光を取り入れています」
ポイント04:掃除のしやすさはアイテムで解決
ペットと暮らす上で、掃除の問題に悩まされている人も多いのではないでしょうか。毛が抜ける、犬のお散歩で足に泥がついている、猫の爪研ぎが散らかる、トイレの周りが汚れる……。多くのシーンで、掃除が必要になります。
前田「掃除のしやすさを重視する上で一番肝になるのが、床です。水に強い、傷に強い、汚れが目立たない、掃除がしやすいといった条件を考えていくと、基本的には土足対応の床材を採用することになりますね。床の上に置く40cm〜50cmほどのタイルカーペットの場合でも、全て土足対応のものにしています。何より掃除がしやすいし、万が一傷んだ箇所があれば、その部分だけ張り替えられるのもメリットです。そのために、あえてムラのあるデザインを選んでいます」

床だけでなく臭い対策も大切なポイント。八王子市のペット共生型コンセプト賃貸マンション『PetimoQ』では、トイレを置く想定の場所に、換気扇を設置しています。居住空間からペットのスペースへと空気の流れを作り、臭いを抜いていきます。
前田「既存の住まいの場合には、既設の換気扇の近くにトイレを置くことで、空気の流れを作ることもできます。珪藻土やシリカライムを壁や天井に塗ることも、臭いや爪研ぎ対策として有効ですね」
ポイント05:コミュニケーションの基本は「目線」から
前田「人間からペットに目線を合わせることはできても、ペットから人間に目線を合わせられる場面は少ないです」
実は、人間と犬の目線が合うと、互いに「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシン濃度が上がると言われています。
前田「ある家で、キャットウォークではなく手すりのところに居つく猫がいました。最初はなぜだかわからなかったのですが、あるとき、猫が奥さんの目線と合う高さだったことに気付きました。そのときに『これだ!』と思って。猫は高いところで遊ぶのも好きですが、人間と近づいて目線の合うところでコミュニケーションを取りたがっていることを学びましたね」

ポイント06:本能的に安心できるスペースを確保!
犬や猫にとって、安心できる場所は欠かせません。前田さんは「犬や猫が野生だった時、本能的にどのような暮らしをしていたかを考える」と言います。犬は仲間と群れを作って暮らし、岩陰や洞窟などを好みます。猫は単独行動が多く、自分だけの落ち着ける空間を求める傾向があります。
前田「特に、睡眠時や排泄時の無防備なときに、どのような環境だったら落ち着くかが重要です。僕がペット用のスペースを作るときは、基本的に目線の高さの1.5倍を目安にしています。犬や猫には体高という基準もありますが、特に犬だと犬種によって首の長さが違うので、目線を基準にするのが良いと考えました。そうした仮説を立てて犬用にスペースを作ったとき、引っ越した日に教えてもいないのにそこに入っていったんです。ここをペットの寝床にする人もいれば、ここをトイレにする人もいますね」

ポイント07:子どもがいる家は「ゾーニング」を大切に
犬と暮らす場合、目的に合わせて空間づくりをする「ゾーニング」がオススメです。前田さんによると、ゾーニングを考えるときには3つのゾーンを意識することがポイントだと言います。
前田「1つ目は、完全にフリーにして良いゾーン。2つ目は、目が行き届いていればフリーにして良いゾーン。3つ目は、完全に遮断するゾーン。例えば、中庭のある『スロープの家・SPIRAL COURT』『スロープの家・CUBE』では、人のいないとき時間帯でも中庭を開け放ち、完全なフリーゾーンにすることができます。犬や猫が好きに行き来することができると、お気に入りの場所を見つけて心地よく過ごすことができます」

一方で、子どもの寝室は、犬や猫が完全に入れないよう遮断するケースもあります。自由に寝返りを打つ幼い子どもは、気付かないうちにペットに乗ってしまうリスクも。ペットの安全面だけではなく、子どもも衛生面などのリスクから守ることができます。
前田「キッチンも完全遮断ゾーンにする家も多いです。キッチン周りは熱い鍋やコンロ、包丁、そして食べられない食材など危険なものがたくさんありますよね。そこで、よくあるのが柵をつける方法です。ただ、大型犬の場合は、バーンと当たってすぐ外れてしまうんです。大型犬のラブラドールと暮らす『スロープの家・CUBE』では、幅が厚く頑丈なキャビネットが動いて侵入防止になるよう工夫しました」



















「そこで、僕がオススメするのはスロープです。エレベーターを検討したこともありましたが、災害時に止まりやすいことがリスクとして挙げられます。特に、大型犬を飼っている場合だと、ペットを抱えて階段で避難すると命の危険が生じてしまうので、スロープは適切なんです」