
PROFILE この記事の登場人物

小田 雄史 安全品質管理部(大東建託/東日本メンテナンスセンター)
メンテナンスセンター浜松のスタッフとして、主に静岡県の建物の調査と改修を実施。屋根の点検や床下の点検、隠蔽部の点検をさまざまなロボットや機材を使用して点検を実施している。

上村 大樹 安全品質管理部(大東建託)
安全品質管理部品質管理課に異動後メンテナンス課を設立。全国の既存物件の調査及び改修を実施。建設DXにも力を入れており、建設ロボット、システム開発を実施している。

肥後 誠 代表取締役/開発者(エアリアルワークス)
ドローン技術・ロボティクス・現場点検ソリューションの分野において、企画・設計・開発・運用まで一貫して手掛ける技術開発者。現場作業の非効率や危険性といった課題を解決するため、「現場から発想する開発」を信念に、実用性を最優先とした機器設計を行っている。
水漏れやシロアリ被害がないか確認する床下点検。賃貸住宅で定期的に行われている重要な作業ですが、その点検方法は、現場担当者が狭くて暗い床下に潜り込み、身体をねじりながら行うという、肉体的にも精神的にも大きな負担となるものでした。そこで大東建託は、ドローン開発で知られる株式会社エアリアルワークスとタッグを組み、床下検査サービス「MOGRAS6L(モグラス・シックス・エル)」を開発。
この「MOGRAS6L」が生まれたことで、現場の負担はどのように変わったのでしょうか?そこで今回は、「MOGRAS6L」による現場の変化や開発の経緯について、実際に床下点検を行っている担当者と開発担当者にお話を伺いました。
過酷な作業から解放。現場担当者が実感する、「MOGRAS6L」導入後の変化

これまでの床下点検にはどのような課題があり、「MOGRAS6L」によってどのように解決されたのでしょうか。床下点検の課題と「MOGRAS6L」の強みについて、現場を担当する小田さんに伺いました。
狭い床下に潜って行う床下点検は、肉体的にも精神的にも苦痛だった
新築物件で検証を実施

床下は非常に汚いもの。作業員は埃まみれになるだけでなく、配管が破損している場合は、汚物による悪臭の中で作業することもあります。また、床下は出入口が一つしかない閉鎖的な空間です。奥へ進むほど「出口が分からなくなるのではないか」という恐怖心が募り、心理的な負担も相当なものでした。
さらに、従来の床下点検は、暗い空間を懐中電灯で照らし、問題がある箇所をカメラで撮影しながら行います。懐中電灯は限られた範囲しか照らせないため、見落としや確認漏れが発生してしまうことも。また、写真がうまく撮れていなかった場合は、もう一度床下に入らなければなりません。そういった二度手間のリスクも、作業員にとっては大きなストレスとなっていました。
小田「床下点検は漏水調査が目的であることが多く、床が濡れているケースもあります。浸水している現場ではカッパを着用して潜りますが、冷たい水に濡れながらの作業は精神的にも肉体的にも堪えましたね」
床下点検の常識を変えた、MOGRAS6Lの3つの強み
狭い、汚い、危険……。そんな床下点検の常識を変えたのが、「MOGRAS6L」。一体どのようにして、これまで現場担当者が抱えていたさまざまな課題を解決しているのでしょうか。
01. スペースの狭い空間にもスルリと潜行
従来の点検における最大の課題は「スペースの狭さ」でした。住宅の構造上、人間が入って写真を撮ることが難しい場所も多くあります。その場合、以前は点検を断念して、カメラに映る範囲だけで点検を済ませるしかありませんでした。しかし、車高が低くコンパクトな「MOGRAS6L」を使用することにより、人間が絶対に入れないような奥の隙間まで、くまなく点検できるようになりました。
小田「スペースが狭いことは、これまでの床下点検において最も大きな課題だったので、自分が入らなくても良くなったことはとても助かりましたね。点検できる範囲も広くなったので、作業が楽になりました」
02. 17cmの段差や配管もラクラク突破
「MOGRAS6L」は大きなタイヤを装備しているため、17cm程度の段差や配管であれば、勢いをつけることなく乗り越えることができます。床下には75mmや100mmの太い配管が張り巡らされていますが、「MOGRAS6L」の段差乗り越え能力があれば、これらの配管の上もスムーズに突破することが可能に。
小田「これまで作業を阻んでいた配管も簡単に乗り越えてくれるので、人間が入れずに断念していたエリアも調査できるんです。また、『MOGRAS6L』は自由に移動できる上、明るいライトで広く照らせるため、暗闇で懐中電灯を持っていた頃に比べて、見落としが少なくなりました」
03. 片手で持てる軽さ。スピーディーに充電&起動し、操作も簡単
「MOGRAS6L」はコンパクトで軽く、本体とリモコンを一人で持ち運ぶことができます。また、複雑な設定は不要で、電源を入れたらすぐに点検を開始することが可能。初めて使う人でもスムーズに操作できます。
小田「ラジコン経験のない私でも簡単に操作できているので、新人の方でも問題なく使用できると思います。スピードが出過ぎるわけでもなく、自分のペースでゆっくりと慎重に走らせることができるため、操作ミスで壁にぶつける不安もありません」
従来の人間による床下点検では、1棟あたり30分~1時間ほどの時間がかかっていました。しかし「MOGRAS6L」の導入により、不具合がある箇所が分かれば数分、全体をぐるっと回ったとしても10分〜15分程度で点検が完了するように。
また、以前は撮影ミスによる潜り直しもたびたび発生していましたが、「MOGRAS6L」導入後は手元のモニターでリアルタイムに確認・録画できるため、一度で作業が完結します。
小田「『MOGRAS6L』は20分で充電が完了するので、現場から次の現場へ行く合間に充電を済ませています。バッテリー切れを心配することなく、1日のうちに複数の現場を効率良く回れるのはありがたいです」
| ポイント | これまでの床下点検 | MOGRAS6Lがもたらした変化 |
|---|---|---|
| 潜り方 | 従業員がサーチライトを持ち、床下に潜る | 従業員が床下に潜らなくても床下点検が可能に |
| 汚れ | 泥まみれになったり埃やカビ、汚物にさらされたりする | 作業員が汚れることがなくなった |
| 身体的な負担 | 這いつくばる姿勢で移動しなければならず、身体的に負担が大きい | 上から操作するだけで点検できるようになったため、身体的な負担が軽減 |
| 精神的な負担 | 出口が分からなくなる不安や閉所恐怖症によるパニックなど、精神的な負担が大きい | 上から操作するだけで点検できるようになったため、精神的な負担はほぼゼロ |
| 確認漏れや見落とし | 懐中電灯で照らしながら調査を行うため、確認漏れや見落としが発生しやすい | 明るいライトで広く照らせるため、確認漏れや見落としが減少 |
| 二度手間の発生 | 写真がうまく撮れていなかった場合、再度床下に潜らなければならない | 手元のモニターでリアルタイムに確認・録画できるため、一度でその場で作業が完結 |
| 点検できる範囲 | 物理的に人が入れないほど狭い場所や、配管などの障害物がある場所では、それ以上の確認できないを断念せざるを得ない | 狭い場所や障害物があっても潜行侵入が可能。隅々まで点検できるように |
開発担当者が語る、「MOGRAS6L」が今の形になるまで
現場担当者のゆとりを生み出し、作業効率も向上させた「MOGRAS6L」。このサービスを開発するまでにどのような過程があったのでしょうか。実際に開発を担当したエアリアルワークス・肥後さんと、大東建託・安全品質管理部の上村さんに、開発の背景や苦労についてお話を伺いました。
開発を加速させたきっかけは能登半島地震だった
開発を担当したエアリアルワークスは、もともとドローン関連の事業に携わっていました。そんな中、肥後さんは展示会などで当時の床下検査サービスが「使いにくい、重い、操作が難しい」といった評価を受けているのを目の当たりに。「そんな現状を変えたい」という思いが、床下検査サービスの開発をスタートさせました。
肥後「床下検査サービスの開発を本格化させる大きな転換点となったのは、2024年1月の能登半島地震でした。一般のお客さまから、『地震で新築物件の基礎にひび割れが見つかり、保険対応のために床下の状況を確認する必要がある。しかし、お風呂場付近が狭すぎて人が入れず、写真が撮影できない』という相談が寄せられたのです」

2024年元日に発生した能登半島地震。大東建託グループは、社員自らが被災しながらも、被災地域への物資配布や義援金の寄付、賃貸住宅の提供など、さまざまな支援を行いました。当時の復興支援活動を通して、大東建託の防災への取り組みについて迫ります。
関連サイトはこちら連絡を受けた肥後さんは夜中に現場へ向かい、自社で開発した床下検査サービスを使って床下の撮影に成功しました。
肥後「お客さまの課題を解決したことで、『この製品は人の役に立つ』と確信し、それまで以上に開発に力を注ぎました」
上村「床下は非常に過酷な環境です。これまで人間が無理をして行っていた辛い作業をロボットに置き換え、建物のメンテナンスをより安全かつ確実にできる体制を整えたいという思いから、エアリアルワークスさんにお声がけしました」
現場担当者の声を反映しながら、トライアンドエラーを重ねた
「MOGRAS6L」が現在の形になるまでには、さまざまな工夫と試行錯誤がありました。その一つが小型軽量化です。以前のモデルは重さが29kgと、高さがある床下にサービスを置いたり持ち上げたりするには重労働でした。そこで改良を重ね、女性が一人でも楽に持ち運びや投入ができる重量まで軽量化したのです。さらに、機械音痴の人でも直感的に操作できるよう、操作性のシンプルさにもこだわりました。
初期の試作段階では、乗り越えられる配管に制限があったり、段差から降りる際に横転してしまったりする課題がありました。そこで肥後さんは、「バッテリーの位置を数ミリ動かす」「タイヤの間隔をわずかに変える」など、ミリ単位でのレイアウト調整を繰り返したのです。
肥後「試作品は現場で試してもらい、現場からのフィードバックを受けて、自社の3Dプリンターを用いて改良版を作成しました。何度も何度も試作を重ね、ようやく最適なバランスを見つけ出したんです」
肥後さんが見つけた最適なバランスによって、機体が安定して障害物を乗り越えることが可能に。段差を乗り越える際も、勢いをつけずスムーズに17cmの段差をクリアできるようになりました。
肥後「実際に床下に潜る苦労を知っている現場担当者の方に何度もテストしてもらったことは、開発を加速する後押しになりました。現場の方の声があったからこそ、真に現場で使える機体を完成させることができたと思います」
上村「私自身、『MOGRAS6L』を開発するにあたって実際に床下に潜ってみたのですが、やはり埃や汚物などがあり、『潜りたくない』というのが本音でしたね。そんな課題を解決するためにエアリアルワークスさんが迅速に対応してくださったので、とても助かりました」
日本全国どこでも、質の高い床下点検を可能にしたい
現在の床下点検は、水漏れなどの問題が起きた際の「調査」として行われる場合がほとんど。しかし、大東建託の上村さんは「将来的には、問題が起きる前にリスクを防ぐための通常点検への活用が目標です」と言います。

現在、「MOGRAS6L」は特定の拠点において実証実験的に運用されていますが、最終的な目標は全国の全従業員へ配備されること。担当者の経験や体格に関わらず、日本全国どこでも均一で質の高い床下点検を提供できる未来が、すぐそこまで来ているのです。
肥後「現在の機体でも多くの場所をカバーできますが、お風呂場の下など、配管が密集している極めて狭い場所での調査にはまだ限界があります。今後はさらなるコンパクト化を進めることで、床下のあらゆる隙間を調査可能にすることが目標です」
上村「床下での成功をモデルケースとして、今後は外壁タイルの点検など、他の危険な高所作業への応用も検討されています。足場を組まずに上からロボットを吊るして調査するなど、人間が危険な場所に行かずに済む仕組みを拡大していきたいですね」
「MOGRAS6L」で建設現場の未来を拓く
従来の床下点検は人間が床下に潜って行っていたため、肉体的・精神的負担が大きな課題でした。しかし、「MOGRAS6L」の開発によってその課題が解決され、現場からも高い評価を得ています。まさに、建設現場におけるDXの成功例といえるでしょう。大東建託では今後、「MOGRAS6L」の全国配備による予防点検の標準化や、外壁調査への応用を目指しています。今後も、発展し続ける建設現場のDX化から目が離せません。




















「従来の床下点検は、作業員が床下に潜って行っていました。床下のスペースは非常に狭く、這いつくばるような姿勢で移動しなければならないため、体に負担がかかります。一度奥まで入ると、戻るためにはその狭い空間の中で方向転換をする必要がありますが、それすら一苦労という状況でした」