
PROFILE この記事の登場人物

川端 健太 地域支援事業部 訪問看護課/理学療法士(ケアパートナー)
2015年より梅ヶ丘訪問看護ステーションにて管理者補佐として勤務。訪問リハビリの実践に加え、事業所運営および人材育成にも携わる。2020年の大東建託ケアパートナー株式会社との合併後も、世田谷区における在宅医療・介護分野で活動。地域包括支援センターからの依頼により、区が企画する体力測定事業や介護予防講座の講師を担当するなど、地域介護予防活動にも参画。
実家に帰省したとき、親の様子に「以前よりも疲れやすそう」「歩くスピードが遅くなった」と感じたことはありませんか? そのちょっとした変化は“フレイル”と呼ばれる状態のサインかもしれません。
この記事では、フレイルの基礎知識やチェック方法、予防法に加えて、大東建託が取り組む「住宅による健康見守り技術」まで分かりやすく解説します。
フレイルとは? どんな状態なのか概要を解説

フレイルは、高齢期に誰もが直面しうる心身の変化です。まずはフレイルの定義や要素、混同されがちな状態について正しく理解しましょう。
フレイルの定義は「健康と要介護の中間状態」
フレイルの語源は、英語の「Frailty(虚弱)」。日本老年医学会が2014年に提唱した概念で、加齢とともに心身の活力が低下し、健康と要介護の中間に位置する状態を指します。
厚生労働省の研究班報告書では、「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能など)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態」と定義されています。しかし同時に、「適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態」とも明記されているのです。つまり、フレイルは「もう戻れない状態」ではありません。この可逆性こそが、フレイルを理解するための最も重要なポイントです。
フレイルの3要素とは?
フレイルは単一の状態ではなく、身体的・精神心理的・社会的という3つの要素が複雑に絡み合って進行します。
- 身体的フレイル:筋力や運動機能の低下が特徴です。具体的には、「筋肉量の減少」「歩行速度の低下」「疲れやすい、すぐに息切れする」などの変化が見られます。
- 精神・心理的フレイル:もの忘れが増えたり、何をするのもおっくうに感じたりといった、うつ状態や認知機能の軽度低下が現れます。
- 社会的フレイル:一人暮らしで孤食が増えたり、外出の機会が減ったりと、社会とのつながりが希薄になることで起こります。
これら3つの要素は互いに影響し合い、悪循環を形成します。たとえば、社会的孤立が食欲低下を招き、栄養不足から身体機能が低下、さらに外出が減って社会的孤立が深まる…… といった具合です。
フレイルと混同されがちな状態があるって本当?
フレイルと似たものとして、「サルコペニア」と「ロコモティブシンドローム」があります。いずれも高齢期に起こりやすい状態ですが、それぞれ定義が異なります。
サルコペニア
サルコペニアは、加齢による筋肉量の減少で筋力や身体能力が低下した状態を指します。ギリシャ語の「サルコ(筋肉)」と「ペニア(減少)」を組み合わせた造語です。サルコペニアは身体的フレイルの中核的な要素であり、フレイルの主要な原因の一つとされています。筋肉量は30代から年1%ずつ減少し、70代には若い頃の50〜60%程度にまで減ってしまうと言われています。
ロコモティブシンドローム
ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ)は、骨、関節、筋肉など運動器の障害により、移動機能が低下した状態のことです。ロコモも身体的フレイルの一部として位置づけられますが、フレイルは運動器だけでなく、精神面や社会面も含む包括的な状態という点で異なります。
フレイルのチェック方法は?

フレイルは早期発見が鍵です。ここでは、日本で広く浸透している評価基準と厚生労働省の質問票を使ったチェック方法を紹介します。
J-CHS基準
こちらの5項目のうち、3項目以上該当するとフレイル、1〜2項目該当するとプレフレイル(フレイルの前段階)と判断されます。
| 項目 | 評価基準 |
|---|---|
| 体重減少 | 6カ月で2kg以上の(意図しない)体重減少 |
| 筋力低下 | 握力:男性28kg以下/女性18kg以下 |
| 疲労感 | ここ2週間、わけもなく疲れたような感じがする |
| 歩行速度 | 通常歩行速度が1.0m/秒未満 |
| 身体活動 | 軽い運動や体操、定期的な運動・スポーツを週に1回もしていない |
出典:2020年改定 日本版CHS基準(J-CHS基準) |国立長寿医療研究センター
厚生労働省の質問票
国が作成した後期高齢者向けの質問票では、体と心の健康状態、認知機能、食習慣、体重変化、社会参加など15項目で、フレイル状態を総合的に把握できます。
| No | 類型名 | 質問文 | 回答 |
|---|---|---|---|
| 1 | 健康状態 | あなたの現在の健康状態はいかがですか | ①よい ②まあよい ③ふつう ④あまりよくない ⑤よくない |
| 2 | 心の健康状態 | 毎日の生活に満足していますか | ①満足 ②やや満足 ③やや不満 ④不満 |
| 3 | 食習慣 | 1日3食きちんと食べていますか | ①はい ②いいえ |
| 4 | 口腔機能 | 半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか ※さきいか、たくあんなど | ①はい ②いいえ |
| 5 | お茶や汁物等でむせることがありますか | ①はい ②いいえ | |
| 6 | 体重変化 | 6カ月間で2~3kg以上の体重減少がありましたか | ①はい ②いいえ |
| 7 | 運動・転倒 | 以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか | ①はい ②いいえ |
| 8 | この1年間に転んだことがありますか | ①はい ②いいえ | |
| 9 | ウォーキング等の運動を週に1回以上していますか | ①はい ②いいえ | |
| 10 | 認知機能 | 周りの人から「いつも同じことを聞く」などの物忘れがあると言われていますか | ①はい ②いいえ |
| 11 | 今日が何月何日かわからない時がありますか | ①はい ②いいえ | |
| 12 | 喫煙 | あなたはたばこを吸いますか | ①吸っている ②吸っていない ③やめた |
| 13 | 社会参加 | 週に1回以上は外出していますか | ①はい ②いいえ |
| 14 | 社会参加 | ふだんから家族や友人との付き合いがありますか | ①はい ②いいえ |
| 15 | ソーシャルサポート | 体調が悪いときに、身近に相談できる人がいますか | ①はい ②いいえ |
出典:高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン第2版-別添 後期高齢者の質問票の解説と留意事項
指輪っかテスト(イレブン・チェック)
医療機関にかからず、道具も使わず、今すぐに実践できる簡単な「指輪っかテスト」もオススメです。やり方は、両手の親指と人差し指で輪を作り、ふくらはぎの一番太い部分を囲む、というもの。囲み具合によって、以下のようにリスクの可能性を把握することができます(画像引用:フレイル予防ハンドブック(東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢))。

- 囲める、余る:サルコペニアの可能性が高い
- ちょうど囲める:中間
- 囲めない:リスクは低い
出典:東京大学高齢社会総合研究機構 論文:Tanaka T, et al. “A novel biomarker of aging (finger-ring test) discriminates risk of older adults in the community: the ILSA study.” Geriatr Gerontol Int. 2018;18(2):224-231.
フレイルになるとどうなる? 放置すると起こる3つのリスク

フレイル状態を放置すると、どのような事態が起こるのでしょうか。ここでは、フレイルがもたらす3つの主なリスクについて解説します。
リスク① 要介護状態へ進行しやすくなる
フレイルの状態になると、ちょっとしたストレスで要介護状態に陥りやすくなります。健康な人が風邪をひいても数日で回復しますが、フレイルの状態では風邪をこじらせて肺炎を発症したり、体調不良で転倒して骨折したりするリスクが高まります。また、入院による環境変化に対応できず、せん妄(一時的に意識が混乱する状態)を引き起こすこともあるのです。
リスク② フレイル・サイクルに陥る
先述した「J-CHS基準」の5項目が相互に関連して、以下のような悪循環を引き起こします。これが「フレイル・サイクル」です。
筋力・筋肉量の減少
↓
活動量の減少
↓
エネルギー消費量の低下
↓
食欲低下・食事量減少
↓
低栄養状態
↓
体重減少
↓
さらに筋力・筋肉量が減少
リスク③ 死亡率が上昇し、生活の質が低下する
フレイル状態に至ると、統計的に死亡率が上昇し、身体能力の低下が加速。さらに、日常生活の質(QOL)が低下し、自立した生活を送ることが困難になる可能性が高まります。
栄養・運動・社会参加…… フレイルの予防法とは?

フレイルを予防するには、栄養・運動・社会参加の3つをバランスよく実践することが重要です。ここでは、それぞれの具体的な対策方法を紹介します。
【栄養】1日3食、たんぱく質をしっかり摂取する
高齢期の栄養管理は、メタボ対策からフレイル予防へのギアチェンジが必要です。1日3食しっかりと食べることはもちろん、主食・主菜・副菜を組み合わせる、孤食よりも共食を心がける、といったポイントを押さえると良いでしょう。加えて、たんぱく質を意識して摂ることも重要です。1日あたりの必要量は人によって異なるので、下記の推奨量と具体例を参考にしながら算出してみてください。
フレイル対策に必要な1日あたりのたんぱく質量
| 推奨量 | 具体例(体重60kgの場合) | 内訳例 |
|---|---|---|
| 体重1kgあたり1.0〜1.2g/日 | たんぱく質 60〜72g/日 | 卵1個(6g)+納豆1パック(7g)+魚80g(16g)+肉80g(16g)+豆腐1/2丁(10g)+牛乳200ml(7g)=約62g |
出典:日本老年医学会「高齢者の栄養管理ガイドライン」 (2020)/ PROT-AGE Study Group. “Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people.” J Am Med Dir Assoc. 2013;14(8):542-559.
【運動】日常生活で体を動かし、筋力を維持する
何もしないと筋肉は衰えます。たんぱく質を含んだ食事と、定期的な運動によって、サルコペニア(筋力低下)の進行を遅らせることが大切です。必要な運動量は、下記を参考にしてください。また、掃除や洗濯、買い物など、日常の家事も立派な運動です。これに加えて、近所を歩くだけでも効果的。一緒に散歩に出かけるなど、親が外出しやすくなる環境を作りましょう。
フレイル対策に必要な運動量
| 運動 | 推奨量 | 具体例 |
|---|---|---|
| 有酸素運動※1 | 中強度の運動を週150分以上(または高強度運動75分以上) | ・早歩き:30分×週5日 ・水中ウォーキング:45分×週3日 ・サイクリング:20分×毎日 |
| 筋力トレーニング(レジスタンス運動)※2 | 週2~3回、主要筋群を鍛える | 下肢:各10回×2~3セット ・スクワット ・片足立ち(左右各1分) ・かかと上げ 上肢:各10回×2~3セット ・ダンベル体操(0.5~1kg) ・壁腕立て伏せ |
| バランストレーニング※3 | 週3回以上 | ・タンデム立ち(つま先とかかとをつける):30秒片足立ち:左右各1分 ・太極拳:30分×週2~3回 |
| 柔軟性運動※4 | 毎日またはほぼ毎日、10分程度 | ・全身ストレッチ:朝晩各5~10分 ・ラジオ体操:1日2回 |
【社会参加】人とのつながりを保ち、孤立を防ぐ
社会とのつながりを失うことが、フレイルの最初の入口とされています。週に1回以上は外出し、地域や人との交流を保つことが重要です。頻繁に会いに行けない場合は、電話やビデオ通話で積極的にコミュニケーションを取る方法もあります。
住宅が健康を見守る!? 大東建託が取り組む「疾患リスクの早期発見モデル」
フレイル予防には、日々の生活習慣の改善が欠かせないことがお分かりいただけたでしょうか。しかし、離れて暮らす親の健康状態を常に把握するのは難しいもの。そこで注目されているのが、住宅そのものが健康を見守る技術です。
大東建託は2024年10月、YKK AP、NTTドコモ・ベンチャーズ、中部電力とともに、トータルフューチャーヘルスケア株式会社(TFH)への出資を通じて、生活空間で発生する転倒などの急変や、認知症などの疾患リスクの早期発見モデルの社会実装に取り組む業界横断のプラットフォームを発足しました。

「急変の早期発見」モデル
住宅や介護施設の生活空間に非接触のセンシングデバイスを設置し、プライバシーが守られる形で居住者のバイタルデータや動きをモニタリング。フレイルや何らかの疾患を原因とした転倒・意識障害などの急変を検知した際には、家族や介護スタッフ、住宅の管理会社や提携する警備会社へ即座に通知し、必要に応じて救急要請を行う仕組みです。
2025年度の市場導入を目指して、大東建託グループのケアパートナーが運営する、認知症高齢者グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームで早期発見の仕組みとして、施設から離れて徘徊したら検知する離設検知と、室内外問わず転倒したら検知する転倒検知の実証実験が進められています。
「軽症での早期発見」モデル
認知症や糖尿病などの疾患リスクを検知した際には、リスクを居住者本人へフィードバック。本人の判断で近くのクリニックや提携病院、オンライン診療の受診につなげることが狙いです。早期発見により、軽症の段階で適切な治療を受けられる機会が増えることが期待されます。
【まとめ】フレイルについて正しく知って、家族の健やかな暮らしを支えよう!
高齢期の変化は、ある日突然訪れるものではなく、日々の暮らしの中に少しずつ現れます。大切なのは「年齢のせい」と見過ごさず、気付いたときに行動を起こすこと。家族の声かけや住環境の工夫、そして新しい見守り技術の活用が、将来の安心につながります。できることから一歩ずつ。今日から、家族みんなでフレイル予防に取り組んでいきましょう。
















