PROFILE この記事の登場人物

安田 匡志 事業戦略部 部長(ケアパートナー )
2020年、中途でケアパートナー株式会社に入社。経営企画室にて約5年間従事した後、事業戦略部に配属。DX推進と海外人材採用に従事し、介護現場の業務削減と人材不足解決に向けて取り組む。

知識 基弥 DX推進課 チーフ(ケアパートナー)
2021年、新卒でケアパートナー株式会社に入社。通所介護事業所にて約1年半の現場経験を積み、経営企画室に配属。経営企画室では訪問看護事業のPMIや社内改善提案制度の運用・改善を担当。2026年にDX推進課に異動し、ChatAIの現場導入・活用促進など、介護事業の業務効率化を進める。
高齢化の進行によって、今後ますますニーズが高まっていく介護業界。しかし、その一方で、経営環境や労働環境の悪化、業務を効率化する技術の遅れなど、さまざまな課題が根強く残っています。その中でも、特に慢性的な人材不足や業務負担の膨大さといった問題が深刻です。
こうした状況下で注目されているのが、DXの実践。見守りセンサーやモニタリング機器によるケアの負担軽減から、書類作成業務のデジタル化、さらにはケアの質を可視化するデータ活用まで、その取り組みは着実に広がりつつあります。そこで今回は、介護サービスにDXの視点を積極的に取り入れている大東建託グループの「ケアパートナー」に、介護業界が抱える課題とその解決に向けたDX事例など、これからの介護の在り方について伺いました。
【課題01:人材不足】3Kのイメージが現場スタッフの負担を増長

高齢化によって介護が必要な人が増加しているにもかかわらず、介護に従事する人材は常に不足しています。さらに、少子化の加速によって、2040年には介護人材がニーズに対して約69万人不足する「2040年問題」が起こると言われており、国や自治体はもちろん、民間レベルでも対策が求められています。
厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」より 【事例01】ベッドセンサーや外出・転倒を検知するシステムで、利用者の見守りが効率的に
介護業界に導入されているデジタル技術には、さまざまなものがあります。例えば、利用者がベッドから起き上がったことをリアルタイムに通知するベッドセンサーや、利用者の体温・脈拍・血圧・呼吸や睡眠の状態をモニタリングする機器はすでに一般的になっています。
知識「ほかには、見守りカメラや赤外線、施設内のスタッフ同士が効率的に連絡を取り合える特定小電力無線の活用など、利用者さまの見守りを効率化するツールの採用も進めています。また当社では、利用者さまが施設外に出たことを知らせる離脱検知システム『リセツテル』を導入しています。認知症を患う利用者さまの中には、自宅に帰ろうと施設からひとりで出てしまい、事故やけがにつながるケースがあります。このシステムにより、利用者さまが施設の外に出てしまった場合でも、アラートによって職員に通知されるため、危険を早期に察知でき、事故が防ぎやすくなります」

さらに高齢者の転倒事故も年々増加傾向にあることから、ケアパートナーでは転倒検知システムを導入。施設の居室内にセンサーを設置することで、利用者の転倒などといった異常を検知した際、職員に通知されます。センサーは非接触型で、利用者のプライバシーにも配慮されているのが特長です。
【事例02】海外人材を採用し、人材不足の解消へ

安田「ケアパートナーでも、主力事業のデイサービスでスタッフの数が足りず、サービスの質を担保できない可能性があったため、新規の利用申し込みをお断りしたことがありました。人材不足が続けば、今後も全国でこうした受け入れ困難といった問題が起こり得ると思います。この問題を解決するために、当社では2026年中に、主にインドネシアとミャンマーから、外国人材を400名程度採用し、まずは働き手の確保から優先的に取り組んでいます。それと並行して、DXによる業務の削減・効率化も進めています」
【課題02:業務負担】ケアプラン、請求書、議事録……。大量の書類作業と紙の文化。非効率なフローが招くリスク

人手不足に加え、介護業界の大きな課題となっているのが膨大な事務作業。今もアナログな方法が主流となっている施設も多く、現場で働くスタッフの大きな負担になっています。介護現場では、介助やケア以外にも多くの業務が発生します。特徴的なのが、他の機関や利用者家族と情報を共有するための書類を、大量に作成する必要があることです。
安田「介護サービスの提供者は、利用者さまの体温・血圧・心拍、その他の様子などを日々細かく記録し、関係者に共有します。また、『ケアプラン(介護サービス計画書)』の文書作成も欠かせません」
ケアプランとは、利用者や家族が介護保険サービスを適切に利用するために、ケアマネージャーが中心となって作成する利用者ごとの計画のことです。その中で決められた介護サービスの内容・種類・頻度が適切かどうかを定期的に振り返るため、さまざまな種類の文書が必要になります。

安田「その他にも、請求書の作成や送付、会議の議事録の作成、 備品の発注など、挙げたらきりがないほど多くの事務作業があります」

しかし、多くの介護サービス事業所では、こうした事務作業が紙によるアナログなやり方で行われています。今でもFAXを使ったり、印刷物を直接手渡しに行ったりする事業所は少なくありません。
安田「こうしたアナログな業務フローが原因でスタッフ間の連携にロスが生じると、思わぬリスクにつながることも懸念されます。例えば、利用者さまの中には、医師から 1 日の水分摂取量を制限されている方、嚥下(えんげ)能力が低下して固形物を飲み込めない方もいるのですが、それらの医療情報が適切に共有されていないと、重大事故につながる恐れもあります。当社ではそうした事例は確認されていませんが、介護サービスの提供者としては特に気をつけたいところですね」
【事例03】請求も報告もスマートに。デジタルデータの活用で事務時間を「ケアの時間」へ転換
こうした状況を改善するため、厚生労働省は事務作業におけるデジタルデータの活用を推進。居宅介護支援事業所と介護サービス事業所の間で毎月やり取りされるケアプランのうち、サービス提供票をデータ連携するための標準仕様を作成する「ケアプラン連携システム」を開発しました。また、実際の施設では帳票をデジタル化して保険証のコピーやスキャン作業を減らしたり、介護記録をデジタルツールで管理したりすることで現場スタッフの負担を軽減するなどの取り組みが進んでいます。

ケアパートナーでは、日中のご利用状況の写真をAIが利用者ごとに分類し、家族やケアマネージャーがアプリ上で閲覧できる「AIデジタルアルバム」、毎月の介護サービス利用料をスムーズに共有する「デジタル請求書」、介護サービス利用者の状態や提供サービス内容をケアマネージャーに共有する「デジタル報告書」の3つの機能を搭載した自社アプリの開発を進めています。
知識「このアプリの最大の特長は、複数の機能を1個のシステムに集約しているところです。複数のシステムを使い分ける必要がないため、デジタルに不慣れな現場スタッフでも操作がしやすく、利用者さまやご家族、ケアマネージャーにとっても使いやすいと思います。また、自社開発ならではのメリットとして、それぞれの利用者さまやご家族、ケアマネージャーの要望に合わせて設計できる点が挙げられます。行政ごとに異なる監査基準や書類の基準にも、柔軟に対応できます」

現在はAIデジタルアルバム、デジタル請求書を試験的に運用しており、現場からは「業務がとても楽になった」という声が上がっています。もともとDXを推進していなかった事業所からも「使っていきたい」という意見があり、今後も導入範囲を広げていく予定です。
知識「最近は、会議の議事録もAIを活用して作成しています。これまで30分から1時間ほどかかっていた作業が、5分から10分程度で完了するようになりました。事務作業に割く時間を削減すれば、残業が減り、スタッフの負担を軽減できます。また、人手が足りない中でもケアに集中する人数と時間を増やせるため、ケアの質も向上します。ご家族やケアマネージャーとのやりとりが効率的になることで、利用者さまの状況をこまめに伝えやすくなり、利用者さまやご家族の安心感と満足度にもつながっていくと考えています」
【課題03:ケアの質】勘と経験に頼ったケアが、介護サービスの質を不安定に

これまでの介護現場では、ケアによって利用者の状態が維持できているのか、下がったのか、上がったのかを定量的に可視化するのが困難で、ケアの質を客観的に評価しづらいという課題がありました。ケアの質を可視化できないと、介護ケアの技術をスタッフの勘や経験に頼らざるを得なくなります。その結果、業務の属人化につながり、均一な介護サービスの提供が困難になるというリスクが高まります。
安田「多くの施設がこの課題を抱えています。提供するサービスの品質を定量化・可視化し、そこから得られたノウハウを社内で共有できるシステムを構築することで、将来にわたり、安定した施設の運営が可能になると考えています」
【事例04】エビデンスに基づいた介護で、利用者と家族の安心を守る
そこで、国はよりエビデンスに基づいた介護を行うため、利用者の状態やケアの内容を介護サービスの提供者に記録させ、国が分析してフィードバックを返す「LIFE(科学的介護情報システム)」を開発。すでに、多くの事業所が導入しています。
安田「こうしたシステムは、確かにケアの質の可視化には有効です。しかし、使いやすさに欠け、評価が一目ではわからないという弱点もありました。そこで当社では、膨大な情報を3カ月、6カ月といった単位でAIに整理させて、利用者さまの写真などの画像情報と組み合わせ、短いレポートにまとめる取り組みを予定しています。こうしたレポートがあれば、利用者さまのご家族、ケアマネージャーなど、普段から直接介護に関わっていない人でも、どんな介護が行われているかをイメージしやすくなるはずです。介護はサービス業なので、利用者さまご本人はもちろん、ご家族、ケアマネージャーや医師などの関係者のニーズを十分に理解し、それらに沿ったサービスを提供することが大切です。そのためには、どんな介護を行っているかを分かりやすく可視化する取り組みが欠かせないと考えています」

大東建託グループ「ケアパートナー」が考える、今後の介護業界
少子高齢化によって社会保障費が増大し、多くの国民が負担を感じている現在。介護業界も、一部の事業で大幅な報酬カットが行われるなど、財源が厳しい状況にあります。そうした中で、ケアパートナーは今後の介護業界をどのように変えていこうとしているのか、安田さんに伺いました。
安田「財源が厳しい中でも利用者さまに必要かつ納得感のあるサービスを届けるには、やはり人材不足の解消や、業務の効率化が欠かせません。今後の介護業界は、DXなしでは立ち行かなくなっていくと思います。さまざまな作業にかかる時間が削減できれば、現場は介護サービスの質の向上に注力できるようになります。どの利用者さまにどのようなサービスをして、どんな結果になったかを振り返る機会をつくり、ケアに集中できる環境を整えていく。これにより、より多くの利用者さまに良質な介護サービスを届けられると考えています」
























「人材不足の背景には、まず介護の仕事が『3K(きつい、汚い、危険)』のイメージを持たれがちなことが挙げられます。深刻なのは、人材不足によって、今働いているスタッフに負担が集中している状態です。介護保険サービスでは、利用者の人数に応じて必要なスタッフの数が厳格に定められています。しかし、人が足りないと、必要な人数を現状のスタッフで賄わなくてはならず、休みが満足にとれないなど、労働環境が過酷になりがちです。その結果、スタッフの精神的・身体的な負荷が大きくなり、介護事故につながる危険性の増大が懸念されます」