PROFILE この記事の登場人物

末若 世奈 DX推進部(大東建託)
2025年4月、AI課長をはじめとする幅広いDXの取り組みに興味を持ち大東建託に中途入社。AI社長の開発に携わり、現在も改良を続けている。

中村 浩樹 DX推進部 部長(大東建託)
2010年、大東建託の情報システム部に新卒入社。設計・工事系システムの開発・運用保守に加え、タブレット導入やRPA・AI活用など先端技術の展開を推進。2019年にDX推進準備室へ異動後、各部門のDX支援や人材育成、データ基盤・市民開発基盤の構築を推進。2026年4月よりDX推進部長に就任。

AI社長
大東建託の全社員が利用可能な社内用AIチャットボット。社内の事務手順やルール、マニュアルに関する質問に答えてくれる
DX戦略を全社で推進している大東建託。2025年10月には、「大東建託のことを何でも知っていて、聞けば何でも答えてくれる」をコンセプトにしたAIチャットボット「AI社長(通称AI-Kちゃん)」を導入しました。このチャットボットは竹内啓社長の似顔絵をアイコンとしており、Kちゃんという名前も社長から取ったもの。そんなAI社長の機能や開発背景について、開発担当者に伺いました。
社内に散らばったルールやマニュアルに何でもお答え。社内用AIチャットボット「AI社長」でできること

AI社長は、大東建託のあらゆる情報を網羅した社内用AIチャットボット。大東建託の全社員が利用可能です。具体的にはどのようなことができるでしょうか?
まずはお二人のご経歴と、AI社長の開発にあたっての役割を教えてください。
DX推進部 部長 中村浩樹(なかむら・ひろき)
末若「私は2025年4月に中途で入社しました。入社直後に、AI社長の開発プロジェクトの担当を任せていただいたんです。それ以来ずっと、開発全般の担当として、社内各部門からの情報収集や取りまとめを行っています。また、開発ベンダーとのやり取りや統括も担っています」
DX推進部 末若世奈(すえわか・せな)AI社長とはどういったシステムなのでしょうか?
中村「社内の事務手順やルール、マニュアルに関する質問に答えます。例えば『自然災害発生時の対応ルールを教えて』『領収書をなくした際の精算方法を教えて』などと入力すれば、社長を模したキャラクター(AI-Kちゃん)が答えてくれます」
末若「情報の引用元となった社内掲示板へのリンク(リファレンス)を必ず表示しています。ユーザーは必要に応じて、元の資料を参照することが可能です」
AI社長に聞いてみた!
大東建託では、帰郷時の交通費が支給される制度があります。しかしその領収書を紛失してしまった場合、交通費の申請は可能なのでしょうか。AI社長に聞いてみると、以下のように答えてくれました。
AI社長「領収書をなくした場合でも、確証に金額の記載があり、記載金額と1,500円未満の在来線であれば精算可能です。記載がない場合や全額精算を希望する場合は帰郷旅費担当までご連絡ください」
問い合わせ先や、情報の引用元となった社内掲示板へのリンクも表示されるので、無事に解決できそうです!

AI社長の強みはどういった点にあるのでしょうか?
末若「最大の強みは、『どの部門が管理している情報か』を意識せずに質問できる点にあります。 これまで支店の社員などは、調べたい情報がどの部署の管轄なのか分からなくて、『誰に聞けばいいんだろう……』と悩むこともありました。その点AI社長は、社内掲示板の情報を横断的に検索できます。管理部署が分からなくても、必要な情報をすぐに取り出すことができるんです」
AI社長にはこんな使い方も!
「支店内の会話で分からない用語が出てきた際に活用しています。入社して間もない私にとって、膨大な情報の中から必要な内容に絞って確認できるのが、とてもありがたいです」
「どこにあるのか煩雑で分かりにくい社内書類の検索の際に、利用しています」
「社内規定等の確認で、週に1〜2回ほど使用しています。一発でほしい答えにたどり着けなくても、近い内容が候補としていくつか出てくるため、いずれかがヒットすることが多く、社内掲示板をあちこちから探さなくてもよくなりました」
約2ヶ月で形にできたのは、なぜ? AI社長誕生のきっかけと開発の裏側

AI社長はどのようにして生まれたのでしょうか? 開発のきっかけや、開発時の裏側について伺いました。
なぜ「社長」をモチーフに?
AI社長の開発は、竹内社長の発言がきっかけだったそうですね。
中村「そうです。開発の直接的なきっかけになったのは、社内のリスクマネジメント委員会で、自然災害が発生した際の対応ルールについて議論していたときのことでした。竹内社長から『緊急事態にわざわざ情報の場所を調べて対応方法を確認するのは無理だろう。そういったことはAIが答えてくれるようにできないか?』という指摘があったんです。こうした、必要なときに必要な情報を即座に取り出せる仕組みの必要性が、開発の原動力になりました」
なぜ社長を模したキャラクターにしたのでしょうか?
末若「一般社員にとっての社長って、直接言葉を交わす機会が少ないので、どうしても遠い存在になりがちですよね。だからこそ、AIのキャラクターとして登場させることで、社長をより身近に感じられるようにしました」

AI社長のアイコンは、どのような点を意識してデザインしたのでしょうか?
末若「パッと見て社長だと分かるように、あえてデフォルメしすぎず、リアルな似顔絵にしました。DX推進部内でアイデアを募り、最終的に4パターンに絞って社長に提案した際、社長自身が『これだ!』と即決したデザインを採用しました」
開発秘話とこだわりポイント
どのような職種の方が、何名ほどの体制で開発を進められたのでしょうか?
末若「私と、外部のベンダーから3名が参加しました。合計で4名です。大東建託のシステム開発は外部へ丸投げするのではなく、ベンダー側に社内に来てもらって一緒に開発をする形をとっています。私が各部門からの情報を集めて取りまとめ、ベンダーの方々と協力してシステムの構築にあたりました」
AI社長は、わずか2カ月ほどで形になったそうですね。このスピード感で実現できた理由を教えてください。
末若「もっとも大きな要因は、Microsoftの『Power Platform』を活用した仕組みがすでに社内基盤として整っていたことです。プログラミング作業がほとんどない状態で構築できたため、開発期間を劇的に短縮できました」
中村「また、竹内社長の『最初から完璧を目指さなくていい。まずは6~7割の出来で展開して、利用者のフィードバックを受けながらアップデートしていこう』という方針も、スピード感アップにつながったと思います」
開発を進めるうえで、こだわったポイントは何でしょうか?
末若「AIの性質上、もっともらしい嘘をつくハルシネーションのリスクが避けられないため、その対策にはこだわっています。AIが回答するだけでなく、引用元となった社内掲示板へのリンクを必ず表示するUIにしました。また、1番目の回答だけでなく、第2、第3の回答候補も表示し、ユーザーが最適な情報を選べるよう工夫しています」

生成AIが事実に基づかない情報を、あたかも正しいかのように出力してしまう現象を指します。
中村「技術の進化が速いため、特定のサービスに依存しない『中身を入れ替えられる作り』にもこだわっていますね。LLM(大規模言語モデル)を『OpenAI』から『Claude』に変更したり、データベースを別のものに入れ替えたりといったことが容易にできる設計にしています」
開発中、苦労したことはありましたか?
末若「社内には膨大なデータがあり、現在の対応範囲だけでも4万5千件に上ります。そうした多くのデータの中から正しい情報を選別し、AIが理解しやすい形に整えることに苦労しました。古い情報が混在する中で、どれが正しいのかを判断して整理する作業はすごく難しかったですし、大変でした。しかし、各部門の方々に協力をいただいたおかげでなんとか乗り越え、形にすることができました」
大東建託にはすでに「AI課長」という教育・研修用ツールもあります。ここで得た開発ノウハウが、AI社長にも生かされているのでしょうか?
中村「実は逆で、『AI社長』で得た知見とノウハウを『AI課長』にも生かしているんです。取り組み自体は『AI課長』のほうが先に始まっていて、当初は教育用の仕組みを独自に開発していましたが、それと並行して『AI社長』の開発が進められたんですね。大東建託において、社内データを検索して回答するRAGという仕組みを初めて採用したのは『AI社長』です」
人工知能(AI)を活用し、若手営業担当者向けの教育・研修用ツール「AI課長」をリリースした大東建託。いったいどんなことができるのか、なぜツール名が“課長”なのか。社内外のプロジェクトメンバーに開発の裏話を聞きました。
新人育成も仕事相談もできるAIの営業パートナー新登場。大東建託が挑む「AI課長」の真価とは?
目指すはキャリア相談のできるAI!? AI社長の現在地とこれからの挑戦

AI社長の導入後、業務はどのように変わったのでしょうか。見えてきた課題や、今後の展望についても伺いました。
AI社長の導入後、業務効率化の面で何か変化は見られましたか?
末若「現場の声を聞いていると、業務効率化に役立っているようです。例えば、『AI社長で必要な情報を見つけられるようになったから、今まで資料探しに費やしていたムダな時間が減った』とか、『誰に聞けばいいのか分からないことをAI社長に聞けるから、心理的に助かる』といった声もありました」
導入後に見えてきた課題や、その解決にあたって現在開発中のものがあれば教えてください。
末若「課題は、回答の精度ですね。今は、質問が具体的であれば7〜8割の精度で回答できますが、ユーザーが『Google検索』のように単語だけで検索したり、内容が曖昧だったりすると、精度が5〜6割まで下がってしまうんです。それを解決するために、AIが文章を理解しやすくする仕組みを構築中です。具体的には、情報を適切な長さに区切って格納する『チャンキング』という作業を、機械的に行う仕組みを作っています」
生成AIにて作成
中村「社内掲示板の情報には、イラストや図で解説されているものも多いんです。現在の仕組みでは、これらをうまく学習できていません。そのため、図表の内容も検索対象に含める検証を行っているところです。画像や図そのものをAIに説明させることで、データの品質を上げていきたいですね」
AI社長の今後の展望について教えてください。
中村「現在は大東建託単体での利用ですが、いずれはグループ会社全体へ広げていく計画です。また、社内情報だけでなく、一般的な質問にも答えられるようにしたい。例えば竹内社長の人格を反映させたAI社長がキャリア相談に答えてくれるような、より対話的な機能の実現も視野に入れています」
まだまだ導入から日が浅い「AI社長」。今後は研修を行うなどして、今以上に多くの社員への浸透を目指しています。そんなAI社長の進化に注目です。
※本記事の内容は、掲載時点の情報です。記載されている会社名、サービス名、役職・肩書などは、現在と異なる場合があります。




















「最初は情報システム部でシステムの開発や運用保守を担当していました。その後、2022年のDX推進準備室(現在のDX推進部)の立ち上げ時に課長として配属され、現在はDX推進部の部長を務めています。社内でAI社長のアイデアが挙がった最初期から対応していて、AI社長の前身となるシステムの開発にも携わりました」