PROFILE この記事の登場人物

河本 光正 企画建設本部長(アスコット)
アスコットが開発した「ASTILE広尾」や「AUSPICE福岡天神」において、部門長としてプロジェクト全体を統括。

渡辺 英雄 営業戦略開発部部長(アスコット)
「AUSPICE福岡天神」では、プロジェクトマネージャーの一人として開発を推進。リーシングと管理運営も担当。
大東建託グループの一員である株式会社アスコットが手掛けた、福岡市天神地区の10階建てオフィスビル「AUSPICE(オースピス)福岡天神」が、2025年度グッドデザイン賞を受賞しました。最大の特徴は、ビルの表面を格子状のルーバーで覆ったような外観。見た目のおしゃれさだけでなく、日射遮蔽として機能し、空調負荷を大幅に軽減しています。そんなAUSPICE福岡天神の魅力を、物件レポートとしてお届け。企画・開発を担当したアスコットの河本さんと渡辺さんに、物件の魅力を教えていただきました。
個性的な外観ながら街に溶け込む、中規模オフィスビル

福岡では現在、再開発により大規模なSクラスビルが次々と建設されています。Sクラスビルとは、都心の一等地に建ち、延床面積や設備、ランドマーク性などにおいて高い基準を満たす大規模オフィスビルのこと。そんな中でアスコットは、Sクラスビルに入るような大企業だけでなく、スタートアップや中小企業などが求める“個性的で質の高い働く場”というニーズに応えるべく「AUSPICE福岡天神」を手掛けました。
開発プロジェクトでは、アスコットのメンバー以外にも、株式会社R.E.D建築設計事務所の赤樫幸治さんが総合設計を、株式会社SAKO建築設計工社の迫 慶一郎さんが建物の意匠やコンセプトデザインを手掛けています。
夏の日差しを遮り冬の光を取り入れる、格子状のルーバー
まず目を引くのは、120マスの格子がビルの表面を覆う、特徴的なデザインの外観。

この格子状の鉄板は、奥行きを5cm刻みで細かく変化させています。それにより、夏の強い日差しを遮りつつ冬の光を取り込むことができます。設計にあたっては、朝日から夕日、夏と冬で異なる日射角度を高度な計算シミュレーションで解析し、最適な形状を導き出しました。
格子の素材は、わずか9mmという非常に薄い鉄板です。一般的なオフィスビルで使われる「カーテンウォール」は、中規模ビルではコスト高になりがち。そこで、地方の工場でも生産可能で、どこでも手に入る鉄板を素材に選びました。
河本「鉄板の表面にリン酸処理を施したことで、年月とともに味わい深く変化していきます。20年、30年と経つうちに風合いが変わって、街になじんでいく様子を楽しめますよ」
街とビルを緩やかに結ぶ前庭
※CGバースは図面と基に描きおこしたイメージです。植栽は竣工から初期の生育期間を経た状態のものを想定して描いています。「AUSPICE福岡天神」は、建物を道路から後退(セットバック)させた位置に建てられています。このセットバックによって生まれたスペースを前庭として整備。道路と建物の間の緩衝地帯とすることで、圧迫感を抑えています。
働き方に応える、二つのテラス

最上階の10階では、このフロアのオフィス専用のプライベートテラス(屋上庭園)に上がることができます。10階フロアの吹き抜け越しに空が見えるように設計されており、室内から屋上テラスへとダイレクトにつながる螺旋階段が印象的です。光や風を感じながら移動できる、ドラマチックな仕掛けになっています。

一方、「コモンテラス」と呼ばれているオープン形式の屋上テラス(屋上庭園)は従業員の出入りが自由。オフィスと屋上テラスを行き来することによって、オンとオフを切り替えながら働ける環境を実現しています。屋上エリアは、インターネットの無線LANにも対応。青空の下でリフレッシュしながらメールチェックなどが可能に。
河本「光、風、空、そして緑といった、自然を五感で感じられるようなワークプレイスを目指しています」
大きな窓から自然光や風が入る、明るいオフィスフロア


オフィスフロアの内部はあえて装飾を排し、シンプルでニュートラルな設計になっています。これは、入居者が自分たちの好みに合わせて空間をカスタマイズできる「キャンバスような場所」にしたいから。そのため、柱がなるべく邪魔にならないように配置され、使いやすい箱のような空間を目指して作られています。また、働く人にとって心地よい環境を目指し、大きな窓からは自然光や風が入り、空や緑を感じられる作りを意識しています。
渡辺「全館LED照明の採用や節水型機器の導入など、環境負荷を低減するための省エネ対策を確実に行っています」
河本「見た目だけでなく実用的な機能も重視していて、たとえば、重い書庫や金庫を置くためのヘビーデューティーゾーンが荷重計算に基づいて設定されています」
地域社会に開かれたエントランスとエレベーターホール

エントランスとエレベーターホールは、あえて広すぎず狭すぎないジャストサイズに設定されています。これにより、1階に入る店舗の面積を確保しつつ、空間の密度を高めています。
エントランスは、壁をわずかにずらして配置したり、突き当たりの部分に鏡を設置することで、視覚的な奥行き感を演出。エレベーターホールは、派手なデコレーションを避け、グレイッシュでシックな色合いに。これにより、モダンで落ち着いた空間を実現しています。
渡辺「1階のエントランスや前庭は、あえてセキュリティを厳重にせず、誰でも出入りできるようになっています。なぜなら、災害時に帰宅困難者の待機場所として機能したり、『誰でもトイレ』が利用できたりするなど、地域社会に貢献する公共性を持たせるためです」
グッドデザイン賞の受賞ポイントと、意外な審査員評

グッドデザイン賞は単に見た目の美しさのみを競うものではなく、「社会や暮らしを豊かにするかどうか」という視点も重要視される賞です。二人は今回の受賞によって、「自分たちの設計が独り善がりなものではなく、社会や暮らしを豊かにするデザインであるというお墨付きをもらえた」と安堵したそうです。
河本「このプロジェクトは、最初からグッドデザイン賞の受賞を戦略的に目指して進めてきました。そういった意味では、受賞はまったくの予想外というよりも、一つの目標を形にできたという実感があります」
審査では、主に「社会性」「参照性(真似しやすい)」「新規性」の3点が評価されました。特に、高度な機械設備に頼る大規模ビルとは対照的に、パッシブ※に環境価値を高めた工夫も評価されています。
渡辺「身近で入手しやすい9mmの鉄板に新たな可能性を見出し、限られたコストの中で高品質な建築を実現したプロセスそのものも、評価の対象となりました。鉄というローテックな素材を活かし、耐震性のある新しい組み立て機構を開発するなど、さまざまなハードルを乗り越えて提案を形にした意気込みが審査員に伝わったのだと思います」
「AUSPICE福岡天神」は、グッドデザイン賞の他にも、「DBJ Green Building認証」の4つ星を取得しました。高ランクの認証は大規模なSクラスビルが取得することが多く、中規模オフィスビルで4つ星を取得している例は全国的にもめずらしいものです。今回の取得は、科学的なシミュレーションに基づいた「日射遮蔽ルーバー」による空調負荷の低減が、評価の大きな要因となっています。また、環境性能だけでなく、地域社会への貢献や利用者の多様性への対応も評価の対象となっています。

奇抜なデザインではなく、街に寄り添ったデザインを

「AUSPICE福岡天神」に問い合わせる企業の多くは、デザイン性の高い外観に興味を持ち、内見へとつながるそうです。また、一般的に大規模なSクラスビルでは1フロアを細かく区画割りしたオフィスが多いところ、「AUSPICE福岡天神」は中規模ビルという利点を活かし、ひとつの企業でフロアを占有することが可能に。そのため、「独立性の高さ」を求めるテナントからの引き合いがあったと言います。特に、スタートアップや新しい価値観を持つ企業に人気を集めているそうです。
オフィスビルデザインにおいて、今後の目標を二人に伺いました。
渡辺「これからも、画一的なデザインではなく、その土地の制約や条件から導き出される独自の個性を大切にしていきたいです。自分たちの手法を押し付けるよりも、現地の設計事務所やゼネコンなど、パートナーが持つ力を最大限に発揮できるよう動くことを大切にしていきたいですね」
河本「街に寄り添い、時間の経過とともに味わいが増すような素材使いや設計を追求していければと思っています。建物と街とのつながりを大切にしながら、その場所に根付く建築を目指していきたいです」
他都市へ広がる新たなモデルを目指して
2025年度グッドデザイン賞を受賞した「AUSPICE福岡天神」。建築の価値は、美しいデザインにとどまらず、街の景観や地域社会との調和にもつながるもの。再開発が進む福岡・天神だけでなく、日本各地で、地域に根ざした新たな中規模オフィスビルのあり方として広がっていくことに期待したいですね。
※本記事の内容は、掲載時点の情報です。記載されている会社名、サービス名、役職・肩書などは、現在と異なる場合があります。





















「よく見ると、ボルトで固定されている接合部などがそのままになっています。それにより、工業製品のような生っぽさや力強さを表現しているんです」