PROFILE この記事の登場人物

大野 裕史 技術開発部 技術開発課(大東建託)
2001年に支店工事課へ入社。支店設計課、技術教育部、設計部などを経て、2024年に技術開発部へ異動。自社で導入する内装建材全般に関わる新規資材や新たな運用方法の開発を手がける。現在は、「入居者の方に喜ばれるウェルビーイング内装」や「現場作業員の方に向けた省力化資材」などの開発に携わっている。

冨山 真明 技術開発部 技術開発課(大東建託)
2010年に工事課へ入社。11年間、現場監督として工事業務に従事した後、技術建築課、メンテナンス課を経て、2025年4月に技術開発課へ異動。現在は、遮音に関する界床、界壁、外壁の資材開発や構成の提案、実際の遮音試験などを担当している。そのほか、ウェルビーイングな空間の実現に向けた資材や、現場の省施工化につながる資材の開発・提案にも取り組んでいる。
集合住宅で切っても切り離せないのが、近隣住民との「音トラブル」。周囲の生活音が気になる一方で、生活リズムの違いなどから、気づかないうちに自分が周囲へ迷惑をかけてしまうことも……。
本記事では、大東建託に日々寄せられる相談をもとに、音トラブルの実態や今日からできる対策をご紹介。さらに、大東建託が取り組む最新の遮音技術を通して、住まいの音環境がどのように進化しているのかを解説します。
「自分は気にならない」がトラブルのもと? 集合住宅の騒音問題の実態
一般的な集合住宅におけるトラブルのうち、実は30〜40%を占めるといわれているのが音トラブルです。まずは寄せられる相談の実態と、トラブルになりやすい音のメカニズムについてひも解きます。
オーディオの大音量より響いている? 実は多い“日常の動作音”
「音トラブル」と聞くと、大音量のオーディオや宴会などの騒音を想像しがちですが、大東建託に寄せられる相談で特に多いのは、実は「椅子を引きずる音やドアの開け閉めする音」「夜中に洗濯機を回す音や歩き回る足音」といった、日常の動作音なのです。

音の大きさは「デシベル(dB)」で表されます。例えば、ささやき声は約30dB、図書館内の静けさは約40dBが目安。次の一覧を参考に、日常生活で発生する音がどの程度の大きさなのかイメージしてみましょう。
騒音レベル(デシベル)の目安

| 騒音レベル | 騒音の目安 |
|---|---|
| 90dB〜 | パチンコ店内 |
| 80~85dB | ゲームセンター店内 |
| 75~80dB | 航空機の機内、地下鉄の車内、蝉の声 |
| 70~75dB | 主要幹線道路周辺(昼間)、従来鉄道の車内、新幹線の車内 |
| 65~70dB | バスの車内、コーヒーショップの店内 |
| 60~65dB | ファミリーレストランの店内、博物館の館内 |
| 55~60dB | 役所の窓口周辺、銀行の窓口周辺 |
| 50~55dB | 高層住宅地(昼間)、書店の店内 |
| 45~50dB | 霊園(昼間)、美術館の館内 |
| 40~45dB | 高層住宅地(夜間)、戸建住宅地(昼間)、図書館の館内 |
| 35~40dB | 戸建住宅地(夜間) |
| 30~35dB | ホテルの室内 |
トラブルになりやすい「固体伝搬音」とは?
音の伝わり方は、話し声のように空気を伝わる「空気伝搬音」と、壁や床の振動で伝わる「固体伝搬音」に分けられます。空気伝搬音は隙間をなくすことで防げるのに対し、固体伝搬音は、壁や床に衝撃がかかって伝わるため、建物側での対策が非常に難しいという特徴があります。
固体伝搬音の例としては、子どもが飛び跳ねたり、重い荷物を下ろしたときの「ドスッ」という重い音(重量衝撃音)や、スプーンなどを落としたときの「カラン」という軽い音(軽量衝撃音)が挙げられます。これらは、振動として隣や下の階へ響きやすいため、注意が必要です。
どうしても発生する「不可抗力・無意識の騒音」に気をつける
子どもの泣き声や足音、掃除機や洗濯機の音などは、生活するうえでどうしても発生してしまう「不可抗力・無意識の騒音」です。こうした音について考える際には、「この程度の音で」「神経質なだけでは」といった先入観を持たず、音に対する感じ方には個人差があると理解することが大切です。自分にとっては気にならない音でも、生活リズムや価値観の異なる人にとっては苦痛になる場合があるという“相互理解”が欠かせません。

また、環境省が定める「騒音に係る環境基準」によると、夜間(22時〜翌6時)は昼間よりも許容される騒音レベルが10dB厳しく(小さく)設定されています。夜中は周囲が静かになるため、洗濯機や掃除機の使用、入浴は22時までに済ませるなど、22時をボーダーラインとして意識しましょう。
水回りでたまに鳴る、「ドン!」「ガン!」という大きな音。周囲への騒音になっていないか、気になっている方もいるのではないでしょうか。実は、水回りで発生する大きな音のなかには、「ウォーターハンマー(水撃現象)」と呼ばれる、配管内の水が急激に停止したり、水圧が変化したりすることで生じる衝撃音もあります。気になる音が続く場合は、自己判断せず、まずは管理会社へ相談してみましょう。

ホームセンターで買える防音対策! お互いが心地よく暮らすための工夫
音トラブルを未然に防ぐために、どのような工夫ができるのでしょうか。住宅管理の現場でも推奨されている防音対策をご紹介します。
管理の現場でも実践! 防音・防振アイテム
最も手っ取り早いのが、ホームセンターなどで手に入りやすく、効果のあるアイテムを導入する方法。ポイントは、やっかいな「固体伝搬音」を発生源でブロックすることです。
① (足音や落下音に)防振マット・カーペット
歩いたり走ったりする際の足音や、モノを落とした時の「ドスッ」「カラン」という落下音の対策には、防振・防音効果のあるマットやカーペットを敷くことで、床への衝撃を吸収し、音が響くのを和らげてくれます。

② (家具の移動音に)フェルトシール
椅子などを引く際の「ギー」「ゴー」という摩擦音(固体伝搬音)は、脚裏にフェルトシールを貼るだけで摩擦と振動が減少し、大幅に改善します。

③ (家電の振動音に)防振ゴムシート
エアコンの室外機などから響く「ブーン」という低周波音には、台座の下に防振ゴムシートを敷くのが効果的。壁や床へ伝わる振動を直接吸収してくれます。一方で、ファンが回る音や室外機本体から発せられる異音は、故障の可能性も。気になる場合は、製造メーカー等に相談するようにしましょう。

音トラブルが発生した場合、まずは全戸への注意喚起文の配布などを通じて改善を促します。それでも状況が改善されないと対象者への直接の注意や対応が行われ、場合によっては契約解除(退去勧告)に発展するケースも。一度トラブルになると、お互いに気まずい思いをするだけでなく、解決までに時間がかかることも多いです。だからこそ、日頃から周囲への配慮を心がけ、未然に防ぐことが大切です。
進化する大東建託の遮音技術。暮らしの快適さを支える取り組み
ここまで、音トラブルの実態や防音対策についてご紹介してきましたが、もちろん入居者さまの配慮だけに頼るわけではありません。大東建託では、建物そのものの遮音性能を高めるための技術開発が日々進められています。大東建託・技術開発部の大野裕史さんと冨山真明さんに、遮音技術の取り組みを聞きました。
独自の技術で「床」からの振動を抑え、固体伝搬音を軽減
集合住宅の音トラブルに対して、技術開発部としてはどのように向き合っているのでしょうか。
特に響きやすい足音などの対策は、どのように行っていますか?
大野「最も一般的な対策として、上階の床を支える骨組みと、下階の天井を支える骨組みをあえて直接つながない構造にして、振動を伝わりにくくしています。さらに、協力業者さまと共同で独自の『防振金物(振動を減らす部品)』を開発したり、音を吸収する『ロックウール吸音板』を導入したりと、実際の建物で一番効果が出る組み合わせを検証して取り入れています」

配管の排水音を抑える「音ナイン」の実力
水回りの音もトラブルの発生しやすいポイントですが、配管にはどのような資材が使われているのでしょうか。
冨山「大東建託の物件では、シーシーアイ住設建材株式会社の『音ナイン』という資材を採用しています。これは、2階から1階へとつながる配管の外側に、吸音材と遮音材をぐるっと巻いたものです。この2層の素材が管の中で発生した音をしっかり吸収・遮断してくれるので、約15dBも音を小さくすることが可能です」
「15dB」は、実際の暮らしでどの程度の変化があるのでしょうか。
冨山「環境省の基準ですと、住宅街において、昼間は55dB以下、夜間は45dB以下が望ましいとされています。『音ナイン』を設置した検証では、排水音が約30dBまで小さくなるという結果が出ました。30dBというのは、夜寝ているときでも静かだと感じられるレベルですね。普段は見えない場所にある技術ですが、入居者さまの快適な暮らしをしっかり支えているんです」
音ナイン(画像提供:シーシーアイ住設建材株式会社) 単に「音が聞こえない」だけじゃない。ウェルビーイングな暮らしへ
音トラブルを完全になくすことは容易ではありません。だからこそ、より快適な住環境を実現するため、遮音性能の向上に向けた技術開発が進められています。一般的に木造住宅では、重量衝撃音の遮音性能「LH-50(LH:レベルヘビー。遮音等級を表す)」は業界最高水準の一つだとされています。大東建託では、現在オプション装備となっている「LH-50」の標準仕様化に向けて、日々技術開発を進めています。
大野さんは、開発に込める思いをこう語ります。「単に『外や隣の音が聞こえない』状態を目指すのではありません。入居者さまの心身の健康や幸福感がさらに高まるような、“ウェルビーイングな暮らし”としての空間をお届けしたいと考えています」
音への少しの配慮と、進化を続ける住まいの技術。その2つが組み合わさることで、私たちの暮らしはもっと豊かで快適なものになっていくはずです。
※本記事の内容は、掲載時点の情報です。記載されている会社名、サービス名、役職・肩書などは、現在と異なる場合があります。



















「集合住宅の音トラブルは、入居者さまからいただくお声のなかでも最重要課題の1つだと考えています。ひと口に音トラブルといっても、上下階(界床)や隣のお部屋(界壁)からの音、あるいは車や電車などの外からの音などさまざまで、それぞれ必要な対策が違います」