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“備えない防災”フェーズフリーとは? 考え方やメリット、取り組み事例を解説

2025.01.27
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“備えない防災”フェーズフリーとは? 考え方やメリット、取り組み事例を解説

PROFILE

佐藤 唯行

佐藤 唯行 社会起業家/防災・危機管理・地域活性アドバイザー/フェーズフリーファウンダー

一般社団法人フェーズフリー協会 代表理事。国内外で多くの社会基盤整備および災害復旧・復興事業を手掛け、世界中で様々な災害が同じように繰り返されてしまう現状を目の当たりにしてきた。その経験・研究に基づき、防災を持続可能なビジネスとして多角的に展開。その一つとしてフェーズフリーを発案し世界ではじめて提唱、フェーズフリーの推進において根源的な役割を担う。フェーズフリー協会ほか複数団体の代表。著書:『フェーズフリー 「日常」を超えた価値を創るデザイン』(翔泳社)。

近年、地震や台風、豪雨などの自然災害が頻発し、防災意識の重要性が高まっています。記憶に新しいところでは、2023年の令和5年台風第6号や2024年の能登半島地震など、日常が根底から覆される甚大な被害をもたらす災害が相次ぐ時代に……。

また、パンデミックや社会不安など、私たちの暮らしを脅かす“もしも”に備え、安心・安全な暮らしを確保することがこれまで以上に重要になっています。しかし、「防災グッズを揃えるのは大変そう……」「普段の生活と別々に考えるのは難しい……」そう感じている方も多いのではないでしょうか?

そこで注目されているのが、備えない防災「フェーズフリー」という考え方。フェーズフリーは、特別な知識やスキルがなくても、誰でも簡単に取り入れることができる、新しい防災の考え方といえるでしょう。本記事では、フェーズフリーな社会の実現を目指す、フェーズフリー協会の佐藤唯行さんに監修いただき、フェーズフリーの基本や事例、日常への取り入れ方などを紹介していきます。

“いつも”と“もしも”を一緒に。日常で使うモノを非常時に生かす、フェーズフリーとは?

「フェーズフリー(Phase Free)」とは、日常時(平常時)と非常時(災害時)という2つのフェーズ(社会の状態)の垣根をフリーにして、身のまわりにあるモノやサービスを、日常・非常双方に役立つようにデザインしようという、防災に関する新しい考え方のこと。

従来の防災は、“もしもの備え”のために“特別なモノ”を用意するという考え方が主流でした。しかし、フェーズフリーは、“いつも使っているモノがもしものときにも役立つ”ように、という発想の転換を促します。

社会起業家/防災・危機管理・地域活性アドバイザー/フェーズフリーファウンダー 佐藤唯行さん 佐藤さん

「大きな災害が起こるたびに、誰もが備えの重要性を意識します。ですが、それぞれに大切な日々の暮らしを送る中で、そのような意識を保ち続けること、さらには何をどう備えればよいのかを学び、実践していくことは並大抵のことではありません。つまり『もしもに備えましょう』という呼びかけだけで、安心安全な社会を築いていくことはあまり現実的ではないといえます。そこで誕生したのが『フェーズフリー』という発想です。多くの人に日常的に使われている商品やサービス、施設などを非常時にも役に立つようデザインし、『いつもをより良くする』ものを提供、普及させていくことで、結果として『自然と備わっている社会』が築かれることを目指しています」

建築や防災、ユニバーサルデザインなどの各分野の専門家によって定義された商品・サービスの5原則

フェーズフリーが目指す方向性は、5つの原則で表わされます。この5原則をまとめたのは、フェーズフリーを研究するプロダクトデザイナーや建築家、防災、マーケティング、経営などの専門家により構成されるグループで、フェーズフリー協会設立メンバーでもあります。

フェーズフリーの5つの原則

常活性 どのような状況においても利用できること。いつもはもちろん、もしもの際にも快適に活用することができるという、フェーズフリーに不可欠な原則
日常性 日常から使えること。日常の感性に合っていること。いつもの暮らしの中で、その商品やサービスを心地よく活用することができるフェーズフリーに重要な原則
直感性 使い方、使用限界、利用限界が分かりやすいこと。使用方法や消耗・交換時期などが分かりやすく、誰にも使いやすい・利用しやすいこと
触発性 気づき、意識、災害に対するイメージを生むこと。フェーズフリーな商品・サービスを通して、多くの人に安全や安心に関する意識を提供すること
普及性 参加でき、広めたりできること。安心で快適な社会をつくるために、誰でも気軽に活用・参加することができること
商品のPF性が認証された「フェーズフリー認証マーク(PF認証マーク)」

商品やサービスの日常時および災害時の価値を、審査した上で認証が認められる、「フェーズフリー認証マーク(PF認証マーク)」。大東建託が提供する、防災配慮型住宅「ぼ・く・ラボ賃貸」シリーズにて、「エール」「ドーモ」「ニーモ」が本認証を取得しています。

ダイバーシティ・インクルージョン

例えば、一般的に出回っている商品やサービスは以下のようなモノがあります。

フェーズフリーの商品・サービス一例

  • バッグにもバケツにもなる撥水バッグ
  • 濡れた紙にも書けるボールペン
  • メジャー付き紙コップ
  • 組み合わせ可能な一人掛けチェア
  • 防災LED付きモバイルバッテリー
  • 温めても温めなくてもおいしいレトルト食品

【背景】フェーズフリーが注目されている背景とは? 2011年以降、各地に甚大な被害をもたらしている大型の自然災害

では、なぜフェーズフリーが注目されつつあるのでしょうか。その理由としては、年々増加傾向にある、大型の自然災害が挙げられるでしょう。

2011年以降頻発する日本国内の大型自然災害

近々では、2024年に発生した能登半島地震など、一瞬で日常生活が一変してしまう甚大な被害が増えています。経済産業省中小企業庁の「中小企業白書2019」によると、日本の自然災害発生件数と被害額の推移は全体としても増加傾向であることがわかります。

社会起業家/防災・危機管理・地域活性アドバイザー/フェーズフリーファウンダー 佐藤唯行さん 佐藤さん

「昨今、ウイルスを起因とするパンデミックや、気候変動による異常気象などが頻発し、暮らしを不安定にする大小さまざまな問題が起こりやすくなっています。いわば、誰もが『いつも』」と『もしも』を頻繁に行き来しているような状態です。そんな時代だからこそ、居心地の良い住宅や、使い慣れた商品やサービスなど、普段からあたりまえに私たちの身近にあるものが非常時にも役に立つフェーズフリーな暮らし方を皆さんにオススメしたいです」

【メリット】防災だけでなく、暮らしも豊かに。フェーズフリーは3つの負担を減らす

フェーズフリーは、防災意識の高まりとともに、近年注目を集めている考え方ですが、そのメリットは防災面だけにとどまりません。

メリット01 精神への負担を軽減

「防災に取り組みたいけど、どうすればいいかわからない……」とか「災害のために何を備えたらいいんだろう?」という、漠然とした不安や悩みが減ります。身の回りのものを、フェーズフリーなものに置き換えていくことで、おのずと災害に備えた状態になれます。

メリット02 経済への負担を軽減

防災グッズを別途購入する必要がないため、無駄な出費を抑え、経済的なメリットも享受できます。フェーズフリーの商品は、多機能でデザイン性も高いものが多く、普段使いもできるため、経済的にもおトクです。

メリット03 家の収納スペースの負担を軽減

防災用品を持たなければ、しまい込むこともなく、その収納スペースが不要になるため、家の中がスッキリします。また、災害のときにだけ使う懐中電灯やラジオは、電池切れしたり、使い方がわからなかったりすることがありますが、日常使いをしておけば、使い方に困ることは減るでしょう。

【日常での実践】まずは無理なく、自分らしく。フェーズフリーの始め方

フェーズフリーを実践する上で重要なポイントは、無理なく、できることから始めること、自分や家族のライフスタイルに合ったものを選ぶこと、そして、オシャレで機能的なアイテムを取り入れて、モチベーションを維持すること。参考になりそうな実践例をまとめてみました。

実践例01 お気に入りのレトルト食品をローリングストックする

普段から少し多めに食材を買っておき、その後は使った分だけ買い足していく「ローリングストック」。長期保存できる備蓄食ではなく、お気に入りのレトルト食品や乾物などをローリングストックすると便利です。いつも使うので賞味期限切れもなく、もしものときには食べ慣れた味で安心です。

実践例01 お気に入りのレトルト食品をローリングストックする

実践例02 日常使いできる防災グッズを探す

日常ではもちろん、災害時にも役立つオシャレで機能的なアイテムが世の中には多くあります。「防災グッズをそろえよう」という考えから、「もしものときにも役立つものを、いつも使おう」という発想に変えてみましょう。

フェーズフリー認証商品の一覧

社会起業家/防災・危機管理・地域活性アドバイザー/フェーズフリーファウンダー 佐藤唯行さん 佐藤さん

「フェーズフリーは、特別なアイテムや知識などがなくても、誰もが今日から実践できることです。『フェーズフリーな働き方とは? 家事とは? 遊びとは?』などなど、日常生活のさまざまなことに“フェーズフリーな”という枕詞をつけて意識してみれば、皆さんもきっと『じつはすでにフェーズフリーなこと』や『ちょっとした工夫でフェーズフリーになること』などを発見できるはず。たとえば、整理整頓が得意な人ならすでに気持ちよく暮らしながら非常時のリスクの軽減もできているということになります。また、忙しい日や疲れている日などには、電気・ガス・水道を使わずパパッと用意できるものをラクして美味しくいただく、というようなこともフェーズフリーな暮らしの一環といえるでしょう。そんなふうに、それぞれに身近なところからフェーズフリーなライフスタイルを意識し始めてもらえたら幸いです」

【事例】企業における、フェーズフリーの取り組み事例4選

フェーズフリーの商品は、モノや食品以外にも施設なども対象となり、最近では企業も商品開発やサービス提供に力を入れています。主な取り組み事例を見ていきましょう。

事例01 デザイン性・機能性が高いテントやウェア(アウトドアブランド)

事例01 デザイン性・機能性が高いテントやウェア(アウトドアブランド)

スタイリッシュなデザインと高い機能性を兼ね備えたアウトドア用品が、災害時にも活躍しています。軽量でコンパクトに収納できるテントや寝袋、高機能な防水透湿素材を使用したウェアなどは、避難生活においても快適さを提供します。

事例02 収納スペースを有効活用できる多機能家具(家具メーカー)

事例02 収納スペースを有効活用できる多機能家具(家具メーカー)

家具メーカーでは、地震に強い家具や、収納スペースを備えた多機能家具など、安全性を重視した商品開発が進んでいます。例えば、壁面に固定できる家具や、転倒防止機能がついた家具は、地震発生時の安全確保に役立ちます。また、ベッドの下に収納スペースを設けたベッドフレームや、ソファベッドなど、限られたスペースを有効活用できる家具も人気です。

事例03 水害にフォーカスした防災配慮型の賃貸住宅(建設メーカー:大東建託)

事例03 水害にフォーカスした防災配慮型の賃貸住宅(建設メーカー:大東建託)

防災の取り組み、「ぼ・く・ラボ」から生まれた商品。1階は車庫を兼ね、屋外の駐車スペースを不要とし土地の高度利用を図っています。1階が浸水しても、2・3階に主な生活機能をまとめているので、在宅避難も可能。ルーフバルコニーや多くの開口部は、普段は開放的で快適な環境を提供する一方、被災時は、避難可能性を高めています。日常時は、事業効率が高く開放的な住まいとなり、被災時は、在宅避難も可能で復旧も早く、生活と事業の継続性を高めたフェーズフリーな賃貸住宅といえます。

「いつも通りの暮らし」が備えに。「ぼ・く・ラボ賃貸 ニーモ」

社会起業家/防災・危機管理・地域活性アドバイザー/フェーズフリーファウンダー 佐藤唯行さん 佐藤さん

「フェーズフリーは、私たちの衣食住すべてのものに適用できる考え方です。『食住』についてはこの記事でも少し紹介されていますが、『衣』でも画期的なフェーズフリー商品が存在しています。たとえば『スポーツ用品メーカが生み出した、スニーカーのように履き心地がよく疲れにくい、いざとなったら長時間歩ける革靴』や『スーツメーカーが開発した、温度・湿度調整機能を持つ、いつでも快適なスーツ』などです。このようにして、すべての産業がフェーズフリーな商品・サービスを生み出してくれたら、私たちの生活は格段に安心安全なものになると思います」

【まとめ】“いつも”の暮らしをより豊かにし、安心と自由を手に入れる。フェーズフリーという考え方を。

いつ、なんどき、発生するか予測不可能な災害。とはいえ、災害時に必要な商品を備蓄しても、日々暮らす空間を圧迫しては元も子もありません。フェーズフリーは、特別なものではなく、日々の暮らしの中に自然に取り入れられる考え方です。“もしも”に備えながら、“いつも”の暮らしをより豊かに、そして自由に。フェーズフリーを通して、自分らしい、安心できるライフスタイルを築いていきませんか?

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