PROFILE この記事の登場人物
野田 誠 施設介護事業部 部長(ケアパートナー)
大学卒業後、特別養護老人ホームに就職。その後、社会福祉法人に7年勤めたのち、2005年にケアパートナー入社。高齢者のグループホーム事業に携わり、2021年より障がい者グループホームも担当。現在は施設介護事業部の部長として、ケアパートナーが手がける高齢者グループホーム・障がい者グループホームの施設責任者を担っている。
団塊の世代が75歳を迎え、国民の5人に1人が後期高齢者になることで生じる2025年問題。医療や福祉、雇用など、さまざまな領域において人手不足や社会保障費の増大といった影響を及ぼすことが懸念されています。この問題は、障がい福祉領域も例外ではありません。親の高齢化により、障がいのある子どもも地域で自立した生活を送ることが困難になっています。
大東建託グループでは、グループ会社のケアパートナー株式会社が中心となり、この領域の課題解決に取り組んでいます。今回は、新たな障がい者グループホーム「パートナーガーデン愛宕」(千葉県野田市)の開設に合わせ、施設介護事業部 部長の野田誠に話を聞きました。
ケアパートナー株式会社は、「地域共生社会」の実現に向け、居宅サービスを中心とした介護事業・訪問看護事業所を運営する看護事業・保育所を運営する保育事業・障がいのある方を対象とした障がい福祉事業の4つのサービス事業を地域に根ざした体制で運営しています。全国28都道府県に183拠点を展開し、年間100万人以上の方にご利用いただいています(2024年11月現在)。
ケアパートナーの企業サイト高齢化や複合化…… 障がい者をめぐる状況は、今どのように変化している?
「日本の障がい福祉が直面している課題といえば、2050年問題にも関係する『8050問題』がもっとも大きなものではないでしょうか」大東建託のグループ会社、ケアパートナーで障がい者と高齢者のグループホームを統括する野田は、昨今の障がい者支援における課題についてこう語ります。
野田「『8050問題』とは、80代の親がひきこもりなどで自活しづらい50代の子どもの生活を支えることで、経済的・精神的に強い負担を強いられる状況のこと。子どもに障がいがある場合、先々の問題はより深刻になります。医療・福祉の進歩によって長生きできる時代になったからこそ、親亡きあとの生活を考えていかなければならないんですよね」
さらに野田は、現場で感じるもう一つの課題として、「障がいの複合化」を挙げます。
野田「障がいを抱える方の中には、知的・精神・身体の障がい、難病など、単一の障がいだけではなく、複数の障がいを併せ持つ方も多くいます。こうした方へのケアも、今後障がい福祉事業が力を入れていくべきポイントですね。障がいが複合化すると支援の方法も複雑化するため、施設職員などの従事者には、より高度な専門性が求められます」
建設・不動産の大東建託がなぜ障がい者支援事業? 入居者の自立を促す「グループホーム」とは
ケアパートナーは1999年の設立以来、介護事業を軸に運営を続けてきました。介護から障がい者支援、請け負う事業の幅を広げたきっかけは、高齢者向けのサービスを利用する方から届いた声だったといいます。
野田「私たちのデイサービスに通われている方の中に、障がいのあるお子さんをお持ちの方が複数いらっしゃったんです。そのうちのお一人が、あるとき当社のスタッフに対して『自分が死んだあと、子どもをどうしよう』と心配の声を漏らして…… そこから当社の障がい者支援事業が始まりました」
ケアパートナーが掲げるバリューのひとつに「地域をたいせつにする」があります。これは、共生社会を実現するため、地域社会の変化に合わせた福祉サービスを提供し、貢献し続ける姿勢から掲げられたもの。ケアのかたちを模索し続ける同社にとって、利用者のニーズに合わせて新たな事業を立ち上げるのは必然でした。
野田「『当社として何かお役に立てることはないか』と考えていたところ、2018年の障害者総合支援法の改正に伴い、日中サービス支援型グループホームの枠組みが創設されました。日中の活動支援と居住支援を一体化して提供できるようなり、当社はこの領域に参入しました。加えて、大東建託グループの強みを活かしながら、質の高いグループホームを展開できるのではないかと考えています」
「障害者総合支援法(正式名称:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)」は、障がいのある人々の日常生活と社会生活を総合的に支援することを目的とした法律です。2018年4月の改正では、障がいをもつ人々が自身のニーズに合わせてより柔軟で包括的な支援を受けられる体制が確立。グループホームの支援内容も大幅に拡充され、24時間対応で、重度の障がい者や高齢者もより手厚い支援が受けられるようになりました。
2022年、ケアパートナーは初の障がい者グループホームを神奈川県大和市に開設。以後、関東を中心に13棟のグループホームを展開、12月には2棟の開設を予定しています(2024年11月現在)。
障がい者グループホームとは、文字通り、障がいをもつ方々が暮らす共同の住まい。基本的に一人一部屋の個室が設けられ、日々支援を受けながら自立を目指した生活を送ります。野田は「単なる施設ではなく、利用者の方々が『ここに帰りたい』と思えるホームをつくりたい」と語ります。
野田「障がいのある方やグループホームは、特別視するものではありません。当たり前のようにそこで暮らせることが大事だと考えています。私たちは利用者さんの成長を見守りながら、できるだけ自立した生活を送れるようなサポートをしたいと考えています」
企画から運営まで。全国規模の「地域に根ざす」を一気通貫で実現する
大東建託グループであるケアパートナーがグループホーム事業を展開する大きな強みは、土地の営業から、企画・設計・施工、そして運営まで、全てを一貫して提供できることです。
野田「今回の『パートナーガーデン愛宕』は、オーナーさまの『地域に貢献したい』という想いが出発点となって建てられたグループホームです。こうした想いを汲み取って実際の運営までつなげられるのは、やはり当社グループだからこそ。また、当社グループの実績や知名度によって、ご契約者さまはもちろん、利用者さまやそのご家族さま、地域のみなさまにも信頼していただけるのだと思っています。
障がい者グループホームのニーズは全国にあるので、当社グループの事業規模を活用して、全国各地のお力になれればと考えています。多くのグループホームを建設・運営していくなかで知見も蓄積されているので、関わる人々のご希望に沿えるよう、今後もバージョンアップしていく予定です」
パートナーガーデンは、入居を受け入れる人々の障がいに制限を設けていません。これも、「地域に根ざすこと」を第一に考えているからだと野田は語ります。
野田「一般的に、健常者と呼ばれる人々は障がいをもつ人々を特別な存在として捉えてしまうことが多いかもしれません。でも、彼・彼女らも”普通”に地域へ溶け込むことができる社会が理想だと思うんです。ゆくゆくは、子どもから大人まで、障がい者も当たり前に住んでいる街をつくることに貢献したい。地域の誰もが”その人らしく”暮らせるよう、ケアパートナーという会社をうまく使っていただけたらありがたいですね」
パートナーガーデンの取り組みは、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」と11「住み続けられるまちづくりを」に寄与しており、特にターゲット11.7では「2030年までに、女性、子供、高齢者及び障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する。」ことが掲げられています。グループホームを拠点に、障がいのある人々が安心して地域社会に参画できるよう、エンパワーメントしています。
「知る」機会の提供が、誰もが“その人らしく”暮らせる社会をつくる第一歩
一見、順調そうな障がい者グループホームの運営。しかし実際のところ、建設を進めるにあたって地域住民から不安の声が上がり、話し合いがおきることは少なくないと野田は言います。
野田「障がい者グループホームの建設に反対する人は、障がいをもつ人々をよく知らないことがほとんどです。知らないから、自分たちの暮らしに何かしらの危害を与えてしまうのではないかと心配になってしまうんですよね。ですから、私たち発信で、障がいや障がいをもつ人々について、障がい者グループホームの活動について知っていただくための説明会などは頻繁に実施し、対話しています。また、地域の行事や清掃活動にも参加し、そこに暮らす方たちと積極的に関わり、理解を得るための機会も設けています」
「誰もが”その人らしく”暮らせること」野田はこの言葉を繰り返し使います。
野田「『障がい者グループホームで暮らしている人たちも地域の仲間だよね』と言ってもらえるような環境をつくっていきたい。そうした環境が、障がいをもつ人々の自立も後押しするのではないでしょうか。微力ながらも社会を巻き込み、“その人らしい”暮らしを全国に展開していければと思います」