
PROFILE この記事の登場人物

鬼沢 裕子 人事・ダイバーシティ領域スペシャリスト(ベネッセホールディングス)
大学卒業後、ベネッセコーポレーションに入社し、教育事業、介護事業、そして人事を主に担当。最終的にはベネッセホールディングスの人事部門のCHRO(最高人事責任者)として執行役員を務め、退任後はアドバイザーとしてベネッセの人事業務に携わる。これまでの人事・介護領域における幅広い知見・経験を活かし、2024年4月からは、コンサルタントとして大東建託の人事部門や関係部門に対して、人的資本経営や介護事業などの取り組みを支援するなど、現在もその分野で活躍している。

湯目 由佳理 執行役員 ダイバーシティ推進部長(大東建託)
2000年に派遣社員として大東建託へ入社し、2002年に正社員に。2016年には人事部のダイバーシティ推進課に異動し、2022年にはダイバーシティ推進部として独立、現在に至る。ダイバーシティ推進に携わって9年目を迎え、長時間労働の改善や有休取得促進、人材育成、労働環境と業績のバランスを見た評価指標の導入など多岐にわたる取り組みを行う。女性活躍推進においては「いろどりLAB」の立ち上げや、両立支援制度の拡充、女性育成プログラムの導入を実現し、女性の管理職増加を目指した活動を推進している。
女性活躍推進のため、大東建託では「女性育成プログラム」を導入し、女性管理職の比率を上げるための具体的な取り組みを進めています。そこで、3月8日の国際女性デーを前に、同プログラムに携わるダイバーシティ推進部の湯目部長と社外パートナーの鬼沢裕子氏による対談を開催しました。
なぜ女性は昇進をためらうのか? 社内アンケートで浮かび上がってきた「自信のなさ」の正体とは? 不安を感じる女性たちに、企業は何ができるのか?
お二人の実体験を交えながら、社会が求める女性登用と当事者の間にあるもどかしいギャップと、そのギャップを解消するアプローチについて、本音で語っていただきました。
「上司みたいになれる気がしない」から、管理職に就きたくない
日本政府は、2030年までに達成すべき女性管理職の比率を「30%程度にする」という目標を掲げています。総務省のデータによると、女性管理職の比率は、1990年で7.9%、2010年には10.6%と、この20年間で少しずつ上がってきていることは事実です。しかし、2019年時点で14.8%に留まっており、その実現には多くの課題が残っていることを示唆しています。
アメリカやイギリスでは約40%以上に達しており、諸外国と比較するとまだまだだといわざるを得ません。
女性の管理職比率が伸び悩む背景には、どんな問題があるのでしょうか?


「弊社の女性社員に行ったアンケートの結果を見ても、家庭との両立の難しさが理由に上がっていました。ただ、意外なことに最大要因として浮かび上がってきたのは『自信がない』というマインド面だったんです」
「自信がない」というのは、具体的にどういうことですか?

「女性たちを見ていて感じるのは、『すべて完璧にできないと管理職になってはいけない』とか、『私は管理職には向いていない』と思い込んでいる方が非常に多いということです。いわゆる『インポスター症候群』のような心理状態ですね。それに加えて、弊社では10年くらい前まで部下に指示命令を出してぐいぐい引っ張っていくような強い牽引型のリーダーシップが求められていたので、そういった上司像を見て自信をなくしてしまう女性も多かったと思います」

ビジネスにおいて成功を収めているにもかかわらず、自分の実力を過小評価してしまう心理的傾向のこと。客観的な評価や実績があっても、それを自分の能力によるものと認識できず、「運が良かっただけ」「周囲の協力のおかげ」と考えてしまいます。特に女性に多く見られる傾向があり、これには社会的・文化的要因が影響しています。
「私には無理です!」から始まった挑戦。周囲に助けられて気付いたのは“管理職もいちポジションに過ぎない”こと

お二人が管理職になった当時は、どのような葛藤があったのでしょうか?

「私も最初は『無理です!』と突っぱねていましたね。当時、下の子が小学校3年生くらいで少し手が離れてきたタイミングでしたが、それでも不安が大きかったです。担当時代には、『今日中に処理しなければならない仕事があるのに添付書類がそろわない、でも帰宅しないといけない』というギリギリの生活をしていたときもありました。そういうシーンでは課長に後のことをお願いして退勤することもあったので、私自身『課長とは、メンバーを助けてくれる存在だ』と思っていたんです。そのため、子育て中の自分にはそんな役割は無理だと感じていました。
でも、上司からの強い後押しもあり、課長になりました。なので最初からメンバーには『皆さんの上司は新人になってしまいました。どうか助けてください』と正直に伝えました。責任にはしっかり向き合いつつも、それ以外のことはチームに任せるスタイルでなんとかやってこられましたね」

「私も同じです。子育ての真っただ中だったので不安はありましたね。踏み切れたのは『ダメだったらそのとき考えればいいや』と思えたからだと思います。上司にも『本当に無理だったらやめます』と伝えていましたね(笑)」

「『まずはやってみよう』、それでいいと思うんですよ。なぜなら、昇進の打診が来る時点で能力は認められているはずだからです。それなのに多くの方が『無理です』と言ってしまうのは、気負いすぎているのだと思います」


「管理職になったばかりの頃は、保育園のお迎えで一度帰宅し、必死で子どもを寝かしつけてその後にまた仕事をするような日々でした。でも、第2子が生まれた後は本当に時間が足りずに成果も出ず、評価も下がってしまいました。なので第3子の育休からの復帰の際は、管理職から外してもらって時短勤務も取って、いちメンバーとして復帰しました。
その経験から、『すべてを自分で背負うのではなく、周囲に頼ることが必要だ』と学び、もう一度昇進の話がきたときにはリーダーシップのスタイルを変えました。すべてを自分で把握しようとせず、それぞれ得意分野を持つメンバーに信頼して任せるという形です。家庭でも同じで、夫や子どもたちに家事や育児を頼り、全体をうまく回していくことを意識しました」

「課長という役割も、チーム全体の中でのひとつのポジションであって、職位に関係なくチームで助け合えるのが理想の形ですよね」
「やはり、まだまだ家庭的な責任を女性が多く担っている現状があるからだと思います。家庭の責任と仕事の責任を両立しようとするとき、女性の方がためらいやすいんですよね。結果として、時間的な制約も生じやすい。そのため昇進をためらってしまう女性が多いのは、残念ながら事実だと思います」