
PROFILE この記事の登場人物
2025年4月13日から開催される大阪・関西万博では、会場内の20施設の設計を若手建築家20組が手がけています。建築家の桐圭佑さんが設計した「ポップアップステージ(東内)」は、仮設性を重視し、大東建託が提供するCLT材を使用するほか、人工の霧が生み出す「雲の屋根」によって、ステージの下に日陰をつくることをテーマにしています。未来の社会を提案する「万博」という場で、こうした作品を発表することの意義とは。着想に至るまでのプロセスや実現までの創意工夫、「未来の建築」のあり方について、桐さんに伺いました。
未来をつくる技術が集まる万博。若手建築家20組が施設を設計
1853年、ニューヨーク万博では、エレベーターの原型である安全装置の付いたリフトが展示されました。リフトに乗った開発者が自らロープを切って安全性を示すデモンストレーションが行われ、それをきっかけに人間用エレベーターが誕生したといわれています。
1876年のフィラデルフィア万博では、電話。1970年の大阪万博では、電気自動車——。
万博には、未来の世界をつくる技術やアイデアが集まりますが、建築も例外でありません。1889年のパリ万博で建てられたエッフェル塔は、当時の技術の粋が集められ、今でもパリの象徴であり続けています。万博で披露された建築のコンセプトや技術は、世界へと広がり、未来をつくってきました。2025年4月13日から開催される大阪・関西万博では、若手建築家20組が会場内の休憩所やポップアップステージなどを設計し、建築の未来を模索しています。

万博で建築するからには、未来につながる一歩先の可能性を示したかった

全20組のうち、「ポップアップステージ(東内)」を担当するのが、建築家の桐圭佑さんです。
桐さんは2009年から2017年にかけて、大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーを務める藤本壮介氏の藤本壮介建築設計事務所で、長く設計実務に携わってきました。藤本氏の事務所では、瀬戸内国際芸術祭の「直島パヴィリオン」やロンドンの「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013」など、パビリオン(博覧会や展示会で使う仮設の建築物)を中心に担当し、未来への新たな提案を模索し続けてきました。2017年には独立し、KIRI ARCHITECTSを設立。集合住宅、歯科医院などの設計を行っています。
今回の公募に応募した経緯について、桐さんはこう語ります。
桐「応募できるコンペやプロポーザルについては、できる限り全て応募したいと思っているので、万博の公募があると聞いた段階でチャレンジしようと思いました。今回の万博については賛否両論ありますし、税金を使うという意味では本当にシリアスに考えていかなきゃいけない部分もあると思います。だからこそ、万博で何かをつくるからには、今すぐには必要なくても、いつか未来につながるような一歩先の可能性を示したいなと。でなければ、万博に挑戦する意味がないなと思ったんです」

桐さんが設計したポップアップステージは、ウッドデッキと人工の霧を発生させてつくる雲の屋根で構成されており、民族音楽のコンサートなど、さまざまなステージイベントが行われる予定です。今回の建築物は半年間の会期が終わったら一度撤去する必要があるため、仮設性を重視していると桐さんは言います。
桐「最初は、いわゆる仮設に使われる材料を使ったり、素材を再利用したりする案も検討したのですが、それにも費用がかかりますし、再利用してくれる企業が見つかるとも限りません。できれば現地で調達でき、会期中だけ存在感を現し、また元に戻っていくような現象を扱いたいと考えました。会期が夏なので、日差しを遮るものは何かしら必要になってくると思うんですが、フィジカルな屋根をかけるのではなく、もっと違う新しい屋根をつくれないかなと。
ヒントになったのは、1970年の大阪万博『ペプシ館』。霧の彫刻家として知られる中谷芙二子さんが人工的に発生させた霧を使った『霧の彫刻』を生み出しました。そうした万博の歴史も踏襲しながら、霧を頭上に滞留させて日陰をつくることで、日除けとしての屋根の役割を持たせることができれば、新しい風景を見られるのではないかと思ったんです」
雲の屋根は、防風用のメッシュ素材と霧の発生装置をリングに取り付け、そのリングを4本の柱で支えられることで頭上に滞留するように工夫されています。テントのように8本の引っ張り材で外側にテンションをかけることで、耐久性を保ちつつ、極力小さな部材寸法で構造を成立させているのも、桐さんが工夫したポイントの一つです。
