
PROFILE この記事の登場人物

植木 秀典 技術開発部 次長(大東建託)/取締役(大東カナダトレーディング)
2017年7月入社。2018年4月から技術開発部に所属し、支給資材の購買、物流を担当。当社構造材のメインとなるランバー材の調達会社「大東カナダトレーディング」設立にも尽力し、現在は2024年物流問題への当社対応策を検討中。

佐藤 洋生 課長(大東カナダトレーディング)
2016年9月大東建託入社。技術開発部にて木材購買を担当。2023年に大東カナダトレーディング株式会社を設立。ギターが趣味で、最近はコストコカナダのステーキに夢中。
昨今、円安や世界情勢の影響を受けて、木材をはじめとする輸入資材の価格も高騰しています。資材の価格が上がれば当然、建物を建てるコストはもちろんのこと、家賃も上がってしまうため、建設・不動産業界への影響は深刻です。
そんな中、大東建託ではこの状況をどう捉え、どんな対策で乗り越えようとしているのでしょうか? 今回リレーインタビューを行った、大東建託の資材調達を担う技術開発部 次長の植木秀典さんと、木材の安定調達を目的にカナダに設立された新会社「大東カナダトレーディング」課長の佐藤洋生さんの話から、一つの道筋が見えてきました。
高騰の一途をたどる。これだけは知っておきたい、輸入資材のいま
日本では、木材や鉄鋼製品、アルミ建材、ガラス、配管材といった国内だけでは十分に供給できない建築資材を、海外からの輸入に頼っています。現在、こうした輸入資材の価格が年々高騰し続けており、建設・不動産業界に深刻な影響をもたらしているのです。
分かりやすい例として、木材の輸入価格の変動を見てみましょう。

日本銀行が発表している「企業物価指数」によれば、2021年9月には木材・木製品・林産物全体の価格が、前年比から69%も上昇していることが分かります。個々の資材ごとに見ていくと、もっとも高騰の幅が少ない丸太でさえ21.1%も上昇していることから、特定資材の高騰だけが影響を与えているわけではないことが、よく分かるのではないでしょうか。
このような価格高騰の背景としては、世界的な物流網の混乱や原材料不足、為替変動などが重なったことが考えられています。特にコロナ以降は、住宅の需要急増や地政学的なリスクも相まって、輸送費などの調達コストはさらに上昇。さらに近年は円安の影響もあり、この問題は長期化しています。
それでは、大東建託ではこのような事態をどのように受け止めているのでしょうか?
私たちの年収が上がらないと値上げしづらい!? 実は家賃と密接な「輸入材値上げ問題」
(写真右)記事前半の取材に協力してくれるのは、技術開発部 次長の植木 秀典(うえき・ひでのり)さん/(写真左)取材に同席してもらった、木材購買・輸入関連業務に携わる、技術開発部の木内 政宏(きうち・まさひろ)さん――輸入材の高騰は、大東建託にどのような影響を与えているのでしょうか?
――なるほど。不動産オーナーが値上げに応じてくれたとしても、入居者が集まらなかったら意味がないですもんね。
植木「そうなんです。しかしコロナ禍以降、利益率が落ちているので、なんとか回復していかなければいけません。サプライヤーの皆様にも値上げを抑えてもらうようお願いしつつ、われわれからも生産効率を上げるための情報提供を行うなどして、できる限りコストを抑える努力を続けています」
――高騰の原因が円安や世界情勢となると、対応が難しそうですね。
植木「まさにその通りで、高騰の原因が為替となると、サプライヤーの皆様も対応が困難です。いくら外貨ベースの価格を抑制しても、為替レートが変わればどうにもなりません。為替予約をすれば急激な変動は抑えられますが、それが長期にわたって続くと、さすがに影響が出てきます。また、海外の工場もインフレによる人件費高騰が起きているため、それも価格に反映せざるを得ません。私たちの打つ手は、サプライヤー様と協力して生産効率を上げ、いかに価格高騰を抑制するかということに尽きるのです」
大東カナダの事務所があるバンクーバーのダウンタウンの街並み――値上げ以外にも、打てる手は打っているのですね……!
植木「そうですね。私たちのビジネスを維持するには、『オーナーさまの事業性』『入居者様に満足して頂ける家賃』『大東建託の利益』の3つのバランスを保つことが最重要です。値上げによって3つのうちのどこかのバランスを崩してはいけないので、どうしても慎重になりますね」
――どうすればこの状況を打開できるのでしょうか?
植木「結局は、景気が上向き、世の中全体の世帯年収が上がり、適正なインフレが進まなければ打開は難しいでしょう。景気が上向き、適正なインフレが進めば、自然と世の中の家賃も上昇してきます。そうなると、家賃の上昇を受け入れる雰囲気が醸成され、われわれも値上げに踏み切れるのですが……。そういった世の中の流れを読みながら、バランスを取っているところです」
木材とは“アイデンテンティ”。大東建託が輸入材を必要とし続けるワケ

――大東建託は、数ある資材の中でも木材を積極的に使っていますよね。
植木「当社の建物は、基本的に2×4(ツーバイフォー)工法で建てられており、構造に関わる部分で木材を使用するため、アイデンティティともいえるほど重要な存在です」
――国産材と輸入材は、どのように使い分けているのでしょう?
植木「なるべく国産材を使いたいと考えてはいますが、強度の問題もあり、使用可能な部位を考えながら使用しています。現在は、全体的にはカナダ、欧州産のSPF材※を使用し、強度的に問題の無い部分には国産材を使用するというように使い分けています」
スウェーデンの森林で伐採された丸太――――なるほど、強度に違いがあるのですね。現在、輸入材が高騰していますが、特に大きな要因は何でしょうか?
植木「カナダの木材についていえば、一番大きいのはアメリカ市場の需要動向です。カナダの製材会社は主にアメリカの市場に向けて木材を製材しているので、アメリカの住宅需要がカナダの木材輸出量を大きく左右します。そして残念ながら今の米国の住宅市場は、トランプ政権による関税問題やインフレ状況、金利状況の影響によってあまり良い状態とはいえません」
――アメリカ市場の需要動向が要因だと、日本側では打つ手がなさそうですね。この輸入材の高騰はいつまで続くと予想されていますか?
植木「いつまで続くのかは『見通せていない』というのが正直なところです。実は、木材の価格自体はドルベースで見ると安いのですが、極端に円安が進んでいるため、円ベースで見ると高くなっているのです。今後はドルベースで見た木材価格も徐々に上がっていくことが予想されるため、円ベースでの木材価格はさらに上昇するでしょう」
――この輸入材の高騰に対して、大東建託はどのような対応策を取っているのでしょうか?
植木「大東建託では、木材の『価格』と『量』の両方をきちんと確保することが重要です。価格ももちろん大切ですが、当社は木材を多く使用する会社なので、量がなければ建物が建ちませんから。では、コストを下げつつ、量を安定的に確保するため、私たちに何ができるのか? そこで設立されたのが『大東カナダトレーディング』という会社です」
設立まで5年。新会社「大東カナダ」は木材調達の何を変えた?
ここからの取材に協力してくれるのは、大東カナダトレーディング 課長の佐藤 洋生さん。普段は主にカナダで業務を行っている(写真は帰国時に撮影したもの)——佐藤さんは現在、大東カナダトレーディング(以下、大東カナダ)に出向されているそうですが、同社が設立された背景を教えてください。
佐藤「『海外に木材の調達拠点を作る』という構想は2018年頃からありました。当時から、上司の加藤さん・植木さんで『輸入木材のコストダウンや安定調達の仕組みを構築することで、当社の事業性をより良いものにできるのではないか』という話をしておりました。2019年から現地法人設立の調査を開始し、コロナ禍により約2年間は何もできない状態が続きましたが、2023年9月に大東カナダを設立しました」
――2018年の時点で、すでに木材の高騰の気配はあったのでしょうか?
佐藤「ありました。2017年から一時的に木材価格が上昇し始めていました。また、コロナ禍に入ってからは第三次ウッドショックが起きるなど、変動を繰り返しています。植木さんがお話していたとおり、最も影響を与えているのはアメリカの住宅市場ですが、他にも虫の被害や山火事、ストライキなども影響し、木材市場は本当に変動が激しい状況です」
「ウッドショック」とは、輸入材の価格高騰により、建築市場に大きな混乱が起こること。この数十年間で3回起きており、一番最近の「第三次ウッドショック」はコロナ禍の2021年3月頃に起こりました。原因は、米国での新築住宅需要の増加や、ヨーロッパ諸国・中国の木材需要拡大、さらにはコロナ禍による輸送コンテナの取り扱い減少などが重なったこと。日本向けの輸入材の供給量が大きく減り、建築会社は材料調達に苦戦を強いられました。
ウッドショックとは? 原因や建築業界への影響、今後の見通しについて解説
――設立の話が出てから実現するまでにおよそ5年がかかっていますが、設立までの道のりで特に苦労した点を教えてください。
佐藤「コロナ禍で海外出張に行けなくなり、法人設立の為の現地調査や取引先の木材品質確認ができなかったことです。木材品質は写真だけでは分からないことが多く、自分の目で見て確認する必要があります。また、取引先とのコミュニケーションもWeb会議だけでは不十分でした」
バンクーバーは自然豊かな街。写真はバンクーバーの観光スポット・リンバレーの吊り橋――コロナ禍が設立を阻んでいたんですね。大東カナダが設立されたことで、大東建託側にはどのような影響がありましたか?
佐藤「木材市況(価格・生産量・供給量)は、世界情勢・各国住宅着工・物流状況などが複雑に影響しあって、常に変動しています。その状況でもタイムリーに収集した情報を元に、チームで柔軟に調達方針を決め、以前より安定的かつ安価に、当社の必要量を調達できるようになってきました。また、取引先の多くがバンクーバーに拠点を持っているため、木材品質・納期管理についても非常に円滑に行えるようになりました。例えば品質不良が発覚した場合、直ぐ取引先工場や倉庫にいって検品を行える体制ができています」
――コストダウンや木材調達の安定化は、アパートのオーナーさまにとっても重要なことですよね。
佐藤「まさしくその通りです。大東建託は、35年にわたる賃貸経営をオーナーさまから任せていただいています。その建物の重要資材の一つである木材の安定調達と価格抑制は、オーナーさまの賃貸経営の事業性を確保する上でもとても重要です」
取引先はヨーロッパにも。持続可能な木材調達のためにできること
現地の木材加工場――ところで、日本はフィリピンやベトナムからも木材を輸入していますよね。大東建託がカナダから木材を輸入するのはなぜでしょうか?
佐藤「実は、私たちが調達している木材のうちの60〜70%はカナダ産ですが、残りの30~40%はヨーロッパからも調達しているんです。例えば、カナダで大規模なストライキや山火事などが発生してしまうと、一時的に調達が途絶えてしまいます。継続的かつ安定的に木材を確保するためには、市況と情勢に応じてさまざまな国・地域から木材を調達する必要があり、新しい市場・取引先開拓を随時行っています」
――ヨーロッパとの取引ならではの難しさはありますか?
佐藤「カナダとの距離と時差が大きい点ですね。例えばフィンランドと話をするには、バンクーバー時間の朝6時頃にWeb会議を始めなければいけません。品質不良が見つかった場合も、バンクーバーならすぐに現地へ飛べますが、ヨーロッパでは距離的に急行するのはなかなか難しいです」
――最後に、大東カナダとしての今後の目標を教えてください。
佐藤「『スピーディーで正確な情報収集』と『大東建託との密なコミュニケーション』、この2つを大切にしながら、取引先とより良い関係を築きつつ、持続可能な木材調達を目指していきたいですね」






































「木材をはじめとするさまざまな建築資材が、だいぶ前から値上がりし続けています。原価が上がったぶん、商品である建物に価格転嫁する必要があるのですが、大東建託の場合は簡単に値上げすればいいという話でもないのです。大東建託は賃貸がメインの会社なので、マンションやアパートを建築し、その後30年以上にわたって管理を続ける必要がある。つまり、建物の価格が上がれば、物件の家賃も上げなければいけなくなるのです。より高い家賃をベースに入居者さまを探すことになるので、そうなるとビジネスそのものが難しくなるのです」