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数百社の企業トップを取材したITmedia記者が語る、企業が向き合うべき“ウェルビーイング”とは

2026.02.02
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数百社の企業トップを取材したITmedia記者が語る、企業が向き合うべき“ウェルビーイング”とは

PROFILE

今野 大一

今野 大一 ITmedia ビジネスオンライン第一編集部 編集記者(アイティメディア)

ビジネス誌『Wedge』、総合情報誌『選択』を経て、2018年にアイティメディア株式会社入社。経営層向けカテゴリ「CxO Insights」を中心に、ITmedia ビジネスオンラインにて企業トップへのインタビューを数多く手掛ける。テクノロジー、ビジネスを軸に、業界や領域を横断した取材経験は数百社に及ぶ。取材・編集においては、アクセス数に左右されず、本質的な問いを立てることを重視。迷う前に現場に足を運び、直接話を聞く姿勢を信条としている。

超高齢化社会に向けて、関心が高まっている企業の「健康経営」。身体的なケアにとどまらず、病気や将来への不安といった心理的側面まで含めて、社員の健康をどう支えていくのかが、いま改めて問われています。

こうした流れのなかで、企業の福利厚生や働き方はどのように変わりつつあるのでしょうか。ITmedia ビジネスオンラインで「病と仕事」をテーマにした連載を手掛ける編集記者・今野大一さんに、取材を通じて感じた課題やヒントについて伺います。

病を“個人の問題”にしないために。連載「病と仕事」を始めたワケ

病を“個人の問題”にしないために。連載「病と仕事」を始めたワケ

ITmediaビジネスオンラインでは、「病と仕事」をテーマにした連載記事を掲載しています。2025年9月に配信された第3回では、大東建託の「従業員のがん診断時に一律100万円を支給する制度」も紹介いただきました。記事を制作するまでに、どのような経緯があったのでしょうか。連載を担当する編集記者の今野大一さんにお話を伺いました。

–––「病と仕事」の連載企画を立ち上げた背景について教えてください。

今野「私は、大学から大学院にかけて、福祉事業団でインターンとして活動し、HIV/エイズの啓発に関わっていました。きっかけは、ある雑誌に掲載されていた『HIV陽性者が差別によって企業で働けない』という記事を読んだことでした。

当時、ジャーナリズムに関心を持っていたこともあり、本当にそんなことがあるのだろうかと疑問に思って、記事に載っていた啓発団体に電話を掛けたんです。そこからご縁がつながり、HIV陽性の当事者の方と出会ったり、学生団体として啓発活動を続けたりするなかで、『将来メディアの仕事に就くなら、マイノリティの声を伝えたい』という思いが芽生えていきました。

ただ、就職してから働いてきたビジネスメディアでは、どうしても成功者や強者の論理を扱うことが多い。自分が体験し、大切にしてきたテーマを、どうビジネスの文脈に落とし込めばいいのか、その方法が長く見つけられずにいました。

そんな中、2019年にがんサバイバーの鳥井大吾さんを取材する機会があり、『これこそ自分がやりたかったことだ』と強く感じたんです。当時、鳥井さんは25歳で営業の仕事をしていました。病を抱えながら働くことは、決して特殊な話ではなく、誰にとっても無関係ではない。そう確信できたことが、連載の出発点になり、がんになってからも『働くこと』を諦めなかった鳥井さんの姿を追った第1回の記事を執筆しました」

アイティメディア株式会社 ITmedia ビジネスオンライン第一編集部 編集記者 今野 大一(こんの・だいち) アイティメディア株式会社 ITmedia ビジネスオンライン第一編集部 編集記者 今野 大一(こんの・だいち)

–––連載の取材を通じて、「病と仕事」について深く考えさせられたエピソードはありますか?

今野「鳥井さんの取材で強く印象に残っているのが、手術の直前にお母さまが撮影されたという1枚の写真です。医師から手術についての説明を受け、翌日、自分の足を失うかもしれないとは思えないほど、明るい笑顔を浮かべている。その写真を見て、自分なら同じ状況であの表情ができるだろうか、と考えさせられました」

今野さんが衝撃を受けたという、手術1時間前にほほ笑む鳥井さんの写真(鳥井大吾さん提供) 今野さんが衝撃を受けたという、手術1時間前にほほ笑む鳥井さんの写真(鳥井大吾さん提供)

今野第2回で、がんに罹患(りかん)した社員に対する基金を創設したガデリウスグループを取材したときも、忘れられない経験があります。当初、がん当事者の方は『顔出しは避けたい』と話していましたが、最終的には実名・顔出しで掲載することになりました。がんは2人に1人が経験するといわれる病気にもかかわらず、なお強い抵抗感がある。その事実から、職場で病気を打ち明けることの難しさを改めて実感しました」

がんになっても働ける。制度が伝える企業のメッセージ

–––連載では、数ある病のなかでも「がん」を取り上げる機会が多いですよね。その理由について教えてください。

今野「最初に取材したのが、鳥井さんが携わっている小児がんやAYA世代のがん、臨床試験(治験)の啓発を目的としたチャリティーライブ『Remember Girl’s Power!!(通称オンコロライブ)』だったこともあり、長年取材してきたことが大きいですね。同じくオンコロライブに司会として携わり、がんステージ4を経験して、現在も啓発活動を続けている元フジテレビアナウンサーの笠井信輔さんが第3回で語ってくださったように、がんは現役世代の場合、治療後に仕事へ復帰できるケースが圧倒的に多いのが実情です。

どこが一番つらいのか、どんな判断を迫られるのかは、実際に経験しなければ分からない部分が多いと思います。ただ、知識があれば選択肢は持てる。記事を通じて、読んだ人の見方が少しでも変わったり、職場での判断に生かされたりするのであれば、それだけで大きな意味があると考えています」

–––笠井さんの記事では、大東建託の「がん治療支援制度」を取り上げていただきました。「がんと診断されたら100万円支給」など取り組みの内容だけでなく、制度が持つ意味について笠井さんは以下のように語っていただいていますね。

笠井さん「大きく2つの意味で素晴らしい取り組みだと思います。1つ目は、『がんと診断されても辞めなくていい』という企業からのメッセージになることです。治療を理由に会社を離れなくても良いと会社自らが宣言しているに等しい。2つ目は、結果として大事な人材を失わなくて済むことです。40代、50代で最も働き盛りの時期にある社員ががんになるのは珍しくありません。新しく人を採用し育てるコストを考えれば、100万円の給付などはむしろコストパフォーマンスが高いわけです。

さらに見逃せないのは『黙って治療している人への効果』です。今は通院でできる治療も多いですから、有休をうまく組み合わせて会社に内緒のまま、抗がん剤や放射線治療を受けている人もいるのです。なぜ言わないかというと、治療をカミングアウトすると仕事を外されかねないから。しかし周囲に内緒にした治療は、患者にとって大きな精神的・肉体的負担です」

今野「正直に言うと、取材前は私自身が『100万円』という金額にばかり目が向いていました。もちろん、その金額は数カ月分の生活を支える現実的な意味を持ちます。私も父を数年前に大腸がんで亡くしていますが、治療費や交通費、薬代、私は経験していないものの、休職中の無収入など、経済的な不安は非常に大きいですからね。

ただ、お話を聞くうちに、本質はそこではないと気づかされました。多くの人は、病気のことを会社に伝えたいと思っても、否定されたり、不利益を被ったりする不安から、なかなか言い出せません。制度を整えることは、従業員に対して『あなたの存在を否定していない』というメッセージを、企業として明確に示すことにつながります。金銭的な支援や休暇制度も重要ですが、それ以上に、心理的安全性を担保することが大切なのだと感じました」

100万円支給! 大東建託のがん治療を支える仕組み

大東建託は、従業員が「がん」と診断されたとき、少しでも安心して治療や仕事に取り組めるよう、サポートする仕組みを整えています。大東建託の“やばい” 制度や取り組みを紹介する、「大東建託のやばい◯◯」シリーズで詳しく紹介しています。

不安な気持ちを制度で支える。大東建託の「がん治療支援制度」がやばい
不安な気持ちを制度で支える。大東建託の「がん治療支援制度」がやばい【大東建託のやばい◯◯】

–––このような制度を整えることは、経営側にとってもメリットがあるでしょうか?

今野「特に人材の面でメリットが大きいと思います。まさに働き盛りの世代もがんに罹患する可能性があるので、制度を整えることで、企業は大切な人材を失わずに済みます。本来は、がんに限らず、社員の健康やウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に満たされ、良好な状態にあること)を支える仕組みが、あらゆる企業に必要だと思います。福利厚生としての保険もトレンドになりつつあり、海外では就労継続を前提とした制度もあります。重要なのは、企業としてのビジョンを内外に示すこと。その点で、日本はまだ途上段階ですが、だからこそ、大東建託さんのように、率先して取り組む企業が際立つのだと思います」

このような制度を整えることは、経営側にとってもメリットがあるでしょうか?

組織のKPIは部下の睡眠時間? 従業員の幸福度を高めることが企業の成長につながる

企業の福利厚生や働き方は、どのように変化しているのでしょうか。企業経営者を数多く取材する今野さんに、日本と海外の事例を交えながら、いま企業がどんな点に目を向け始めているのか伺います。

–––普段、経営層へのインタビューで「健康経営」が話題に上ることはありますか。

今野「日本企業の経営者インタビューでは、あまり前面に出てくる話題ではないですね。もちろん、経営者の皆さんが社員の健康問題を考えていないわけではありません。そこを考えられない人が、そもそもトップには立たないですから。ただ、『健康経営』を軸に議論が深掘りされるケースは、まだ多くない印象です」

健康経営とは?

従業員の健康を個人任せや福利厚生の一環として扱うのではなく、企業の持続的成長に直結する経営課題として位置づけ、戦略的に取り組む考え方のこと。生産性の向上や人材の定着、企業価値の向上を見据え、「人への投資」を明確な意思として示す点に特徴があります。大東建託グループでも、2018年に「大東建託グループ健康宣言」を制定。大東建託グループの21社すべてが「健康経営優良法人2025」の認定を取得しています。

健康経営が注目される理由とは? 定義や企業・従業員へのメリットと取り組みについて解説
健康経営とは?

–––海外の経営者やリーダーの場合はいかがでしょうか。

今野「米国を代表する財閥・ロックフェラー家当主デイビッド・ロックフェラー・ジュニアさんへのインタビューで、『お父さまから何を教わりましたか?』と尋ねたところ、『働く人がハッピーになる会社にしなさい、と教えられた』とおっしゃっていました。社食でも制度でも何でもいい、とにかく社員が幸せに働ける環境を整えることが大切だと。

もう一つ印象深いのが、最近取材した台湾の初代デジタル省大臣を務めたオードリー・タンさんの話です。タンさんが率いていた組織のKPIは『部下の睡眠時間』だったそうです。十分な睡眠が取れていなければ、新しい情報を受け取ることも、適切に考えることもできない。変化の激しい時代に対応するには、限られた労働時間の中で最大のパフォーマンスを発揮する必要があります。そのために、まず睡眠を重視しているという話でした。

『ちゃんと眠れているか』というのは基本的なことですが、もしかすると日本の労働生産性が上がらない根本原因を考えたときに、売上や商談件数よりも、大事な要素なのかもしれませんよね」

売上や商談件数よりも、大事な要素なのかもしれませんよね」

–––最後に、大規模な制度を一気に整えるのは、多くの企業にとって簡単ではないと思います。そのなかで、まず着手しやすい取り組みとして、どのようなことが考えられるでしょうか。

今野「私は経営者層にインタビューする際に、必ず『マネジメントで気をつけていることは何ですか?』と聞きます。以前取材した、漫画家・鳥山明さんを発掘した『週刊少年ジャンプ』の元編集長・鳥嶋和彦さんは、白泉社の社長に就任した際、 全社員と30分ずつ面談を行ったそうです。仕事の進捗確認ではなく、何を考えているのか、どんなことに悩んでいるのかを聞く、いわば雑談の時間でした。

社員の健康状態はどうか、何に関心を持ち、どんな不安を抱えているのか。睡眠は取れているのか。制度以前に、トップ層が社員一人ひとりに目を向けることは、どの企業でも『やろうと思えばできる』ことです。ただ、シンプルな分、実行するのは意外と難しい。だからこそ、価値があるのだと思います」

社員を守り、企業の信頼を形づくる健康経営

健康経営とは、社員を守るための取り組みであると同時に、企業の価値観やビジョンを内外に示すものでもあります。病を個人の問題にせず、組織として支える。その積み重ねこそが、これからの企業の信頼を形づくっていくのではないでしょうか。

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